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「コタくん、大丈夫!?」
玄関扉を開けると、両腕で僕の両腕を掴み、開口一番安否を確認する。
「え?どうしたの?」
「無事なら良かった」と、陽月がくずおれた。
「ちょっと、陽月、大丈夫!?」
僕は陽月を抱き起した。その様子を雪乃が青ざめた様子で見ている。
「貴女は浮雲ね」
陽月は静かに雪乃に話しかけた。
「…うきくも?」
「コタくん。彼女と話しても構わない?」
「え、あぁ、もちろん構わないけど、どう言うこと?」
「分からない」と、陽月は静かに首を振った。
「彼女は浮雲といって、月雲に仕えていた下女よ。月雲に暇を出された後に、故郷で寂しく果てたそうよ。これは私の月雲としての記憶ではなくて、月雲が残してくれたものみたい。だから記憶というよりも文献を読むような、伝聞的なものなんだけれど…」
「うきくも…あ、」
「何か思い出した?」
「いや、僕は、というか仙理は直接的には知らないらしい。でも、月雲を神殿に迎え入れてからしばらく後に、月雲がひどく悲しんで伏せっていたことがあったらしい。その時に『うきくも』という名を聞いたみたいだ」
陽月はこくりと頷いた。
「そのときね、きっと。浮雲の訃報を知らされて悲しみに沈んでいたんだわ」
「そこに仙理は何か関係していたのかな?」
「それは、」と陽月が言いかけたとき、「それはアタシが話してあげるよ。せっかくなら、本当人の口から聞きたいだろ?」と、目を真っ赤にした雪乃が言った。彼女はいつの間にか泣いていたのだ。
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