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「なぜアタシが仙理を恨んでいるのか。それは月雲さまを取られたからだよ」
仙理が月雲を浮雲から取り上げた?
「月雲さまがとても有能なお方だったのはアンタもよく知ってるだろう?何せ天下の仙理さまの右腕になった人だもの」と、雪乃は僕を睨みつけた。
「アンタの元へ行くために、アタシは暇を出されたんだよ。それはさっき月雲さまがお話しくださったよね。そして故郷で果てたというところまで。なぜアタシが果てたのか。それは月雲さまという拠り所を失くしたからだよ。月雲さまの側にお仕えできることだけが、アタシをこの世に留める理由だったんだ。生きる理由を失くしたアタシは、なぁんにもする気が出なくてさ。気づいたら果ててたんだ」
浮雲が果てたのにはそんな理由があったなんて…
僕は小声で陽月に尋ねた。
「月雲は知っていたのかな」
「ううん、知らなかったみたい」
「そうか…」
陽月は静かに雪乃に近づくと、ぎゅっと抱きしめた。
「ごめんね。そんなふうに貴女を苦しめていたなんて」
「違います、月雲さま。あなたのせいではありません」
「いいえ、私のせい。私の意思で仙理さまのところに向かったんだもの」
「でも、あなたは私も連れてくださろうとしました」
「けれども叶えられなかったでしょ?」
「それは、仙理さまがお許しにならなかったからでしょう」
「いいえ、」 と陽月は雪乃の身体を離した。
「仙理さまは貴女のことを知らないのよ。貴女を神殿に入れなかったのはもっと下の神官たちよ。神格化された仙理さまには何の自由もなかったのよ」
「そんな…」
「それに、」と、陽月は静かに目を閉じた。何かを思い出すように。
「貴女を手厚く弔ってくれたのは仙理さまよ。私の大切な人だからと。神官たちに見つからないよう、こっそりとだけど」
「そんな!」
「貴女をひとりにしたせいで貴女の生を奪ってしまったことは、どう償っても許されないわね」
「いいえ、月雲さま。あなたが私の死を悲しみ、アタシを思っていてくださったことが分かっただけで十分です」
「…ありがとう。そして本当にごめんなさい」
「もう謝らないでください」
「わかった。ありがとう」
「でも、代わりにひとつお許しいただけますか?」
「私にできることなら」
「これからも、あなたを想うことを許してくださいますか?」
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