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はーっ
思わず深いため息が出た。
ふたりきりになったら、また何を言い出すのか分からない。
「ふたりきりってのは、不味いよねぇ。みんながいる場ではメンドクサイこと言わないと思ったからここで打ち合わせすることにしたのに」
「でも、」と、ハレが口を開く。
「ふたりきりの方が本音を探りやすいかも知れません」
なるほど、それは一理あるかも知れない。
「でもなぁ。面倒なことになる予感が…」
「そこをサポートするのがワタクシの役目でございますよ」
「そっか。ハレがそう言うなら腹を決めよう」
「そこまで覚悟の要ることなのですね?」
「まぁね。これがなかなか手強い相手でさ」
正直なところ、気乗りはしない。でも今のままでは陽月との仲も進展しない。ここは覚悟を決めて動かなければ、前には進めないだろう。
「では」と、ハレが切り出す。
「合図を決めておきましょう」
「合図?」
「雪乃さまの言動の真偽を探るに当たって、真なのか偽なのか、ワタクシからコタさまにお伝えする方法です」
「そうか。会話の折々でハレからの合図を見れば、その言葉が本当なのか嘘なのか分かるってことだね」
「左様でございます」
合図は不自然でなく、分かりやすいものがいい。普通の猫がしていても不自然ではない動き…
「では、尾を振るのはどうでしょう?」
「うん、それが一番自然な気がする」
「真なら一度、偽なら二度、尾を振ります」
そう言って、ハレは真のとき偽のとき、それぞれの振り方を実際にして見せた。
「了解。あと、想定外のときは、三度振ってもらおうかな」
「想定外、ですか?」
僕の言葉にハレがキョトンとなる。
「ほら、真か偽か計りかねることもあるだろ?そういうときは三度振って」
「わかりました」と、こくりと頷く。
「なるほど、想定外の場合ですか。それは考えませんでした。さすがはコタさまです」と、ハレは感心したように言う。
「いや、そんな大したことじゃないよ。だってさ、世の中には真なのか偽なのか分からないことだらけだし、どにらにも決められないこともいっぱいあるから…」
「あぁ!なるほど!」と、今度は得心したと言わんばかりにウンウンと頷く。
「コタさまは普段から優柔不断であられるので、どちらか分からないというのがスタンダードなのですね!」
「そんな標準、ないでしょ!?」と、僕はがっくり肩を落とした。
優柔不断。
自分でも思ってはいたけれど、猫(正しくは猫又だけれど)に言われるとショックだ。人外のものから見ても、僕は優柔不断なのか…
自分でも分かっていたつもりだけど、他者から言われると思った以上にダメージを喰らう。
優柔不断とはあまりいい響きじゃない。なんとか払拭せねば…!
いや、それよりも今は雪乃だった。
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