ウミに迫りくる影   ~ウミ編~

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ウミに迫りくる影   ~ウミ編~

江戸時代の江戸一帯は中心部を除き、ほとんどが山で貧富の差は激しく平民は苦しい生活を強いられていた。そんな中でも非人とされたウミの暮らしは非常に厳しく、人に芸を見せたり、汚れ仕事を引き受けながら、何とかその日を生き延びていた。 ウミは薄汚れたぼろ切れを身に纏っていた。その汚い布が引き立てるように美しい瞳をもっており、実に器量の良い娘であった。身分は低いとはいえ、そんな美しい娘に反応しない男はおらず、密かに男の目を釘付けにしていたのである。 そんな男の存在を知ってか知らずか、ウミはいつも髪の毛を顔面に覆うようにしてうつむき人を避けていた。汚い布切れで覆っても隠し切ることのできない美しさが吐息のようにかすかに漏れていたのだった。 そんなある日のこと。 いつものようにウミは村人の頼みを片っ端から聞き、一つ一つ息つく暇もなくこなしていた。冷たい川の水でせっせっと衣類を洗っているといきなり背後から髪の毛を掴まれ思いっきり顔を水の中に押し込まれた。突然のことで抵抗もできず必死に起き上がろうとした。その瞬間押さえつけていた腕が一瞬緩み、ウミはグハッと水を吐き出しひどく咳き込みながら起き上がった。 濡れた髪の間から鋭く光る眼光が目の前の男を捕らえた。その一瞬の隙に獣のように突っ走るウミ。数人の男が慌てて追いかける。 どれくらい駆け抜けただろうか。木々の枝や草がウミの身体を傷つけながら鳥は騒いだ。そのとき、ウミは地面に叩き付けられた。「もう…だめだ…。」ウミは気を失った。
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