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うごめくもの ~ウミ編~
シズは時間ができると山小屋へ向かった。行く度に新しい客と常連客で賑わっている。女はいつも一人だ。装いは季節のようにガラッと変わることもあった。雰囲気も見る度に少し違うような気がした。
なぜあの女はあんなにも男を夢中にさせていられるんだろうか。男は一度女を手にいれてしまえば飽きるのではないのか?
シズには不思議でならなかった。
あの女のどこに毒のような魅力があるというのか。
シズがお使いで町に出たとき、ついでに遊郭を歩いてみた。この女どもとあの女、何が違うんだ。
……はっ!……まさか……
シズは四六時中あの女で頭がいっぱいだった。今すぐにでも山小屋へ行きたいのになかなか行けなかった。
久しぶりの山小屋に胸は躍った。相変わらずの繁盛ぶりだ。貢ぎ物も装飾も豪華になっていく。女をじっと観察する。
やはりだ。シズの予想通りだった。
あの女は媚びていない。無意識に感じる、こいつに何かを渡さねばならぬ負担感。
媚びとはそういうものだ。
媚びた時点で相手に何かを期待しているのだ。そして自分を偽っている。
あの女は、男に何一つ求めちゃいない。自分を偽っちゃいない。あの女は遊女のくせに男に見下されていない。汚くない。なぜか汚くない。
見れば見るほど気になった。シズが足繁く通って一月が過ぎた頃、それは起こった。
女が男を嫌がり、泣き叫び抵抗したのだ。
そんなことをしたら鞭でうたれるぞ!
シズは真っ青になっていた。
すると、一人、二人…三人と男がたちまち駆け寄り、女から男を引き離したのだ。シズは驚いた。
そんなことがあるのか??
引き離された男は逆上したが、その場にいるすべての冷たい視線に堪えきれず、急いで身なりを糺して立ち去った。
男どものあたたかい視線が女に集中する。
なんてことだ……。
この女に何がある。
この女に何があるんだ。
シズにはわからなかった。
シズの奥底で何かが蠢いた。
人間には開けてはならぬ岩戸がある。
シズはその岩戸の下にあるものを感じてしまったのだった。
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