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# クローゼットの奥深くに眠る結末
風が強くて、空は快晴だ。
ぼんやりと空を眺める。
そっか、もう3年生は卒業か……
いつもより早く流れる雲を目で追いながら、
自分で企画してみた最後の思い出に
筆を進め、ふと思う。
ピコッと軽快な通知音が響くので横目に見ると、
…華園千雪…と表示されている。
“…………ことになったの…”
その文だけで俺は気持ちが軽くなるのを感じた。
やっとかよ…
甘えてきたり、寂しがったり、
散々待ったよな…
ようやっと“好きな人”と一緒になったんだな…
“おめでとう”
別に苦しいとかは無かったし、
途中から気持ちが離れているのを感じていた…
心のどこかで面倒くさかったのかもしれない。
嘘で固めた俺のまま、
ここまでくるのに依存させちゃった?
LINEは既読だけして返事はしなかった。
これ以上かける言葉も、
話すこともない。
俺は、
きっとちゆじゃなくても同じ行動しただろう。
…多分……
…したんじゃないかって…思う…
最近わかってきた…
俺は恋愛は出来ないんだってことが…
いろんな奴と話せば話すほどに、
俺は恋愛じゃ足りなくて、
生温くて、
誰かが“好きなんじゃないか”と言えば、
じゃあそうなんじゃないの?
って適当に演じてみた…
好きだと言われれば、
求められれば、
キスをするとか、肌を重ねるとか、
そんなのは誰でも良かった。
どうでも良かった。
俺が欲しいのは、
恋愛よりも、
一緒に ×××××××× …
そこに千雪は当てはまらないし…
できる限りのことはしてやったけど、
全部リハビリみたいなものだと言い聞かせていた。
愛されたかっただけなんだろうし、
所詮俺なんて、そこまでの存在で…
使い捨てみたいなもんだって
ずっと思いながら見てきた。
だから、
切り捨てることに何も躊躇う必要はない…
…終わらせないとな…
これ以上依存する前に…
強く生きてもらう為に…
ちょうど卒業式に学校に行く用事がある。
何となく思い出したように、
…黒いチューリップのイラストを描きたくなった。
遠い昔、よく描いていたことがあったな…
ある人に贈ったんだったか…
懐かしいなぁ…
…思い出の品物と一緒にイラストを並べ、
その日は眠りについた…
…
暗い暗い教室、卒業式の朝…
俺は静かに机に向かっていく。
華園千雪 は、俺にとってのひとつの思い出で、
これでやっと終わるんだな。
「良かったな、これからは強く生きろよ」
愛されたかった千雪が救われたのなら、
それでいいんじゃないだろうか?
机の中に入れた思い出…
千雪はクローゼットの奥深くに思い出をしまう癖がある。
じゃあ、
いつかコレにも気付いてくれんのかな…?
って…三年に上がるときに整理したら気付くもんだよな…?
気付いたら、
もっともっと奥深くに埋めて、
全部なかったことみたいに笑って過ごすんだろうか…
捨てんのかな?
華園千雪に逆戻りするのかもしんないけど、
お前の選んだ道を俺は応援してるよ。
助けて欲しい時は、
俺じゃ無くて、ソイツが居るだろうから…
きっと大丈夫だろう。
全部憶測だけどな…
…
真っ暗な教室を歩く…
隣の2年A組に入ってから自分の席の机に座った。
……2年生が終わる……
最後の方は学校に全然来なかったな…
3年になったら学校には来ないだろう。
来るとしても、
受け入れてもらえるような人間になれてねぇかも…
いや?シキコーは甘いからなぁ…
きっと優しく迎え入れてくれんのかな。
…まぁ、そんな長く生きてる保証は無いけど…
煙草を吸いながら一息付く…
そういえば…
千雪がストーカー事件に巻き込まれた時に、
落書きしたんだった…
ゆっくりと空き教室に向かっていき、
落書きを見ようと覗きこむと綺麗に跡形もなく消えていた。
…まるで、俺を消してしまうかのように…
…そこには、何もなかった。
……手間が省けたな……
最初から、
そういうことだったのかもしんない…
…さて、
後は3年生の卒業祝いを配りに回るだけか…
知らないやつの似顔絵まで描くのは中々に楽しかった…
誰も俺の企画だなんて気付かないだろうか…
いや、俺の仕業だって
誰かに聞いたらバレんのか…
…
じゃあ…最後に、やってやりますか…
…
…
千雪、……
俺の分も幸せになれよ。
END
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