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パズルは無言でその場に立ちつくしている。その前を見ると、葦の中にポッドが横たわっていた。僕もセブも足を止めて、それを遠巻きに眺めた。
ポッドは遊園地によくある四人乗りのコーヒー・カップの形に似ていた。円筒形で、ドア付きの乗り口があって、乗り込むと向い合せに腰をかけるようになっている。ポッドは斜めに傾き、船底を半分泥にめり込ませていた。
僕らはポッドに近づいていった。僕らは思い思いに表面を撫でたり、押したりしてみた。ポッドの表面には小さな傷や凹みがあったけど、目だった損傷は見られなかった。力を加えて押すと、ドラム缶のようにゆさゆさと揺れた。
「このポッドは……」と僕は誰に問うでもなく口に出した。
パズルとセブがうなづいた。僕らはほとんど同時に赤く染まった空を見上げた。その空には紅に染まる雲の下に一つの島が浮かんでいた。
――魔法ランドだ。
かつてバブル景気が最盛期だったころ、ホテルやテーマ・パークなどの施設が搭載された空中浮遊型の人工島が数多く作られた。それらは天空のレジャー・ランドと呼ばれた。バブル期には空前の天空のレジャー・ランドブームが起こった。魔法ランドもその一つだった。
魔法ランドは偉大なる魔法使いグリズリの魔法によって空に浮かんでいた。そこには慈愛に溢れる王様ルーサー大王が治める王国があって、人々は幸せに暮らしていた。そして、ついに、王子様とお姫様の結婚によって人々の幸せが頂点に達しようとしていた。しかし、それを邪魔する悪い魔法使いマゼルがいたんだ。お客さんたちは、さらわれたお姫様を救い出すため、鳥や蝶の姿をしたオーニソプターに乗って、王子や小人たちと力を合わせて翼竜と戦ったり、空賊船の船長になって宝探しの冒険をしたりするわけだ。
魔法ランドが開園した当初は、駅と専用駐車場から魔法ランドへと飛んで行くポッドやシャトルの群れを空に見ることが出来た。それはまるで無数の風船が魔法ランドへと飛び立っていっているように見えた。
あの風船の一つに乗って魔法ランドへ行けたら……。僕はそんな憧れを抱いた。
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