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週末の夜ともなれば、地上から魔法ランドへ向かって花火が打ち上げられ、火華に包まれるたびに人々の歓声が沸き上がるのが家にいても微かに聞こえてきた。あそこでは、空を走る四頭立ての馬車や機関車のパレードが行われ、それらの華やかな照明が夜空に反射し、家の窓から見上げると、まるでオーロラがかかっているかのように見えた。学校でもさっそく、裕福な家の子たちが魔法ランドへ連れて行ってもらった。そういった子供たちは自慢気に魔法ランドの話をするのだった。空賊と翼竜との激しい戦い、お姫様の感謝のキス……、そこで自分はどんなにわくわくする冒険をしたのか。魔法ランドから地平を眺めたときの景色がどんなに壮大だったか。彼らの話は僕らの想像をかき立て、魔法ランドへの憧れを強くさせていった。
当然、この町に住むどの家の子供も、親に魔法ランドへ連れて行ってくれるようねだったはずだ。僕だって父さんにねだったさ。けれども父さんの答えはいつもこうだった。そんな暇があったら家の仕事でも手伝え、って。パズルもセブの家も同じだった。魔法ランドのチケットはとても高額だった。
僕らは、放課後、土手に寝そべりながら、無言で夕日に照らされた魔法ランドを眺めたものだ。
しかし、すぐにバブルははじける。それとともに魔法ランドの入場者の数も急激に減っていった。週末に花火は上がらなくなり、パレードは中止になった。徐々に魔法ランドと地上を結ぶシャトルやポッドの数が減り始め、にぎやかだった空も寂しくなってきた。そして、ついに三年前に閉園になった。それ以降、新たに運営するものも現れず、魔法ランドは空中に漂うただの廃虚と化していった。
僕らの目の前にあるポッドはその魔法ランドと地上を結ぶ乗り物として使われていたものだ。
「魔法ランドがつぶれたとき、引き取った業者が捨てたんだろう」とパズルがポッドをさすりながらタメ息をついた。「シャトルやポッドを引き取ったのはいいけれど、売れ残った。それを人目につかないこんなとこに捨てたんだ」
「大人はいつも無責任だ」僕はそう付け加える。
この町にはそうやって捨てられたポッドやシャトルが、山や河原に点在していた。それらのほとんどはひどく破損していたり、錆に覆われたりしていた。目の前のポッドほど完璧な形で捨てられていたものは珍しかった。
「これ、飛ばないかな?」僕はふと呟いた。
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