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お店に着いた私は、レストランじゃなくてバーカウターに座った。鏡を見て、目の腫れが引いたことを確認してサングラスを外した。
「なに飲む?」
『モヒート!』
本場の味にすっかり虜になった私。
「壁のサインも凄いね」
世界各国の有名人が訪れた際、みんな壁にサインを残していくんだという。
『日本の誰かのもある?』
「たしかあったような…名前知らないけどダンサーとか?」
『へぇ…じゃあ私も書いちゃおっかな』
「どの世界で有名なんだよ」
人懐っこい笑顔でグラスを拭くケンタの顔が、店の入り口に向いた。ぞろぞろと4人組のグループが入ってきた。男女比は3対1。ケンタはカウンターから出て行って、彼らと「イェーイ」とハグをする。お客さんっていうよりは、友達って感じの距離感。
「ちょっと待ってて」
背後から耳元で囁かれ……ケンタは囁いたつもりはなかったのかもしれないけど、思わず肩が上がっちゃうような色っぽい声に、身体の奥がきゅっとした。
四人組を奥のレストランへ案内し、戻ってきたケンタ。
『友達?』
「そうそう。みんないい奴らだよ」
お酒を作りながら、ケンタは自分のことを話してくれた。もともとスペイン料理を専門にやっていた料理人で、自分の店を持つのが夢だって。伝統的なキューバ料理を学んでいるのは、店を持った時の強みになるからだって。
『ケンタっていくつなの?』
「今年33」
『さっ……若くみえるね~』
「そ?こんなもんだろ。お前……え~っと…名前…」
『チコ』
そういえば名乗って無かった。
「チコ?へぇかわいい。チコはいくつ?」
『ケンタより下』
「はいはい、言わない系ね」
ケンタは器用にグラスを4つ持って、彼らのテーブルへ歩いて行った。その姿を何となく目で追っていたら、その中の一人と目が合った。
ひらひら~と手を振られ、私もひらひら~と笑顔で振り返す。その様子に気が付いたケンタが、手を振っていた人を小突いてた。
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