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それからルイスが私の相手をしてくれて、距離が近付くとケンタが飛んでくる。
「俺が終わるまで待ってろ」
耳に残る低い声。今度は確実に囁かれたと思う。
“危なっかしい”という理由で、帰りはケンタがホテルまで送ってくれるらしい。そこそこ飲んで騒いだ私は、そこそこ酔っ払い。
『危なっかしいって…私そんなに軽くないのにー』
「分かってるよ…って危ねぇなあ!ふらふらするなよ」
『してなーい』
否定しながらもふらふらして今にも転びそうな私。「やっぱり危なっかしい」ってケンタが笑いながら腕を支えてくれたけど、私的にはもう少し支えが欲しい感じ。
『……好きだけど』
「え?」
『…好きだけど、ずっと一緒にいたいわけじゃない。そう言われたの』
あんまりじゃないか、そんな残酷な言葉。失望に終わった恋。昨日たくさん泣いたから、今日はもう泣かないって決めてたのに。
「忘れられないの?」
『…忘れたい』
「そう……じゃあどうぞ」
ケンタが腕を離し、私に背を向けた。
「背中貸してあげる」
私はその広い背中に引っ付いて、わんわん泣いた。きっとこうやって、誰かの温もりを感じながら泣きたかったんだと思う。彼を好きだった気持ちも全部全部流し出す。
「泣きすぎるとまた目が腫れるぞ」
ケンタは気付いてた。泣き止んで、ズルズルと鼻をすする私を覗き込んで苦笑い。
「ひっでぇ顔」
手のひらで強引に涙を拭かれ、「もう泣くなよ」と頭をわしゃわしゃと撫でられた。
そうだ、恋が終わっても私の人生はまだまだたっぷり残ってる。過去に囚われた時間を過ごすより、未来を考えたほうが有意義じゃないか。
「明日晴れんかなぁ」
ケンタは私の手首を掴んでホテルまでの残りの道を歩いた。酔っ払いの私に合わせて、ゆっくり、ゆっくり。バラデロについて色々教えてくれて、あっと言う間にホテルに着いた。
「明日、朝7時に迎えにくるから」
ホテルのロビーで手を離したケンタは、ふわっと私を片手で抱きしめて、頬を重ねた。
「おやすみ」
『…おやすみ…なさい…』
これは挨拶だ。でもちょっと…酔いが回りそう。
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