初日、おひとり様

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初日、おひとり様

コロンブスが地上で一番美しい島と賞賛した、カリブ海最大の島・キューバ。 “常夏の楽園”と形容される完璧なまでに青い海と、抜けるような青空。”希望”と”期待”を詰め込んだ旅のお供、真っ赤なスーツケースが燦々と降り注ぐ陽光を浴びて煌めいている。 『き、来ちゃった…』 20代最後の夏休みを利用して、私・小野間知子は、この地で旅行会社のスタッフとして働く遠距離恋愛中の彼・添田大輔の誕生日を祝うために、遠路遥々ここまでやってきたのだ。 大輔は、私が働く駅ビルの運営会社の福利厚生を扱う企業の社員で、月数回の頻度で出入りしていた。 「一目惚れした」と、猛アタックを受け付き合い出した。気持ちが盛り上がる前に、根負けしたような形だ。だけど私たちはうまくいっていた。大輔はその後、珍しい旅先ばかりを扱う旅行会社に転職し、いきなりキューバ支店へ配属になった。これは1年数ヶ月前の話。 8月末に夏季休暇を取り大輔に会いに行くと同僚に話したら、”いよいよ?”なんて冷やかされてきたけど、私は曖昧に頷いてきた。それなりの時間を一緒に過ごしてきた彼とは色々あったけれど、そろそろ私たちはそんな時期。 もしかしたら。そんな期待も込め、日本からカナダのトロントを経由して、約20時間かけて異国の地へやってきた。 キューバの玄関口ホセ・マルティ国際空港を一歩出れば、私を歓迎してくれているかのような爽やかな風が頬を撫でた。仕事中の彼が空港まで迎えに来れないのは仕方ないとして、雨季真っ只中の8月下旬にこれだけカラッと晴れているのは幸先良いスタートの証。この旅のために新調したサングラスを掛け、彼の住む首都・ハバナを目指す。 約半年ぶりの再会。彼は元気かしら?
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