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それからお店が忙しくなって、騒がしくなってくると、急に隣の席の椅子が引かれて誰かが座った。
「¿Bien?」
“元気?”といきなり聞いてきた男は、さっきひらひらと手を振っていたケンタの友達だった。
『Si』
笑顔で返して、ノリにつられるように乾杯をする。バーっと早口のスペイン語で色々しゃべられて困惑していると、それに気が付いたケンタが早歩きでやってきた。
「隣座ってんじゃねーよ」
椅子ごと動かされた私の横に、衝立のようにケンタが立つ。その間もケンタの友達は何やらベラベラと話をしている。ケンタは”違うよ”みたいな事を言っているっぽかった。
『何て言ってるの?』
「あ、あぁ…。俺の彼女かって。だから違うよって言ってた」
『あ、うん』
「あと、かわいいってさ」
わぉ。
『さんきゅ~!』
私はケンタを挟んでその友達とハイタッチをした。
「だからやめろって」
ケンタが小突くのは、友達の肩。
「こいつはルイス。調子いいけどいい奴だから」
ルイスは私と同い年くらいの生粋のキューバ人。ケンタを挟んでまたベラベラと私に話しかけてきた。
「ビーチに行かないかって誘ってる」
『ビーチ?!』
「そ。明日俺ら5人でバラデロに遊びに行くことにしてて。一緒にどうだって」
バラデロって…キューバ最大のビーチリゾートじゃないですかぁ!!行きたかったけど、さすがに1人ではダメだと思って諦めてたところ。
い、行きたい。でも…ケンタはどうなんだろう。友達が誘ってくれただけで、彼は私がくることに乗り気じゃないかも。
“行ってもいいの?”ケンタを見上げてみた。
「おいで」
誘うような口ぶりに、火を灯したように指先が熱くなって、コロン…とグラス中で氷が溶けた。
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