with U

4/11
前へ
/18ページ
次へ
それからお店が忙しくなって、騒がしくなってくると、急に隣の席の椅子が引かれて誰かが座った。 「¿Bien?」 “元気?”といきなり聞いてきた男は、さっきひらひらと手を振っていたケンタの友達だった。 『Si』 笑顔で返して、ノリにつられるように乾杯をする。バーっと早口のスペイン語で色々しゃべられて困惑していると、それに気が付いたケンタが早歩きでやってきた。 「隣座ってんじゃねーよ」 椅子ごと動かされた私の横に、衝立のようにケンタが立つ。その間もケンタの友達は何やらベラベラと話をしている。ケンタは”違うよ”みたいな事を言っているっぽかった。 『何て言ってるの?』 「あ、あぁ…。俺の彼女かって。だから違うよって言ってた」 『あ、うん』 「あと、かわいいってさ」 わぉ。 『さんきゅ~!』 私はケンタを挟んでその友達とハイタッチをした。    「だからやめろって」 ケンタが小突くのは、友達の肩。 「こいつはルイス。調子いいけどいい奴だから」 ルイスは私と同い年くらいの生粋のキューバ人。ケンタを挟んでまたベラベラと私に話しかけてきた。 「ビーチに行かないかって誘ってる」 『ビーチ?!』 「そ。明日俺ら5人でバラデロに遊びに行くことにしてて。一緒にどうだって」 バラデロって…キューバ最大のビーチリゾートじゃないですかぁ!!行きたかったけど、さすがに1人ではダメだと思って諦めてたところ。 い、行きたい。でも…ケンタはどうなんだろう。友達が誘ってくれただけで、彼は私がくることに乗り気じゃないかも。 “行ってもいいの?”ケンタを見上げてみた。 「おいで」 誘うような口ぶりに、火を灯したように指先が熱くなって、コロン…とグラス中で氷が溶けた。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1229人が本棚に入れています
本棚に追加