1230人が本棚に入れています
本棚に追加
みんなでランチして、うたた寝して、また海に入って。さぁ帰ろうって車に戻る途中、ポツリ、ポツリと雨粒が落ちてきた。あっと言う間に目の前が見えなくなるほどの土砂降りへと変わり、私たちは各々雨をしのげる場所へと避難した。
「はぐれちゃったなー」
私とケンタは木の下へ。私を幹の方へ寄せ、吹き付ける雨と葉の間から落ちてくる雨粒に当たらないように、ケンタは盾になった。
『優しいね』
「ん?」
『ううん、何でもない。これどれくらい降るのかな?』
「10分くらいだよ」
雨の音に声がかき消されないように、自然と顔が近くなる。だけどわたし達は、その会話以降喋るのをやめて、じっと雨の動向を見守っていた。
「…好きだけど、一緒にいたくない」
『え?』
不意にケンタが話し出した。
「……好きだから、一緒にいたいと思う。俺は」
そうだよね。そう言おうと思って顔を上げると、大粒の雨が一粒ポタリと頬に落ちた。見上げた先のケンタも濡れている。ふと視線がずれて、ケンタの目は私の頬を流れる雨の行方を追っていた。
落ちることなく顎先に留まった水滴。ケンタの指がそれを拭って、そのまま顎を持ち上げた。濡れた髪に手が差し込まれ、触れた唇。私は彼のキスを受け入れた。
「……ずっと一緒にはいられないから…今は一緒にいたい」
『……うん』
もう一度、息が止まるようなキスをして。ケンタは私をしっかりと抱きしめた。雨が止むまで、ずっと、ずっと。
ケンタは紳士的だった。自分の部屋に連れ込もうと思えばできたのに、彼は私をホテルに送った。
「いつこっちを発つの?」
『3日のお昼…』
「今日が9月1日だから…明後日か…」
『うん』
ねぇ…あんな情熱的なキスをしておいて、本当にこのまま私を帰すの?
「……なぁ…やっぱりうち…」
『行っちゃおっかなぁ!』
「え?」
『ケンタんち、行っちゃおっかなぁ!』
うじうじしてるくらいなら、走ってみればいいじゃないか。どっちに向かって走っても、未来しかない。だったら、少しでも気持ちが傾いた方へ。
欲しいと思った方へ。
「大歓迎。荷物持っておいで」
最初のコメントを投稿しよう!