初日、おひとり様

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「iHola!」 『オ、オラッ!』 スペインの植民地時代の名残りなのか、キューバの公用語はスペイン語だ。陽気な人種も相まって、空港のタクシー乗り場に辿り着くまでに何人もの人に笑顔で”こんにちは”と声を掛けられた。 タクシーの車列には、夢にまで見たクラシックカーが並ぶ。私はどうしてもこのクラシックカーのタクシーに乗りたくて、運転手に話しかけた。 今夜泊まるホテル名を伝え、金額交渉。基本的にメーターは付いてないから、最初の交渉が大事だ。”お願いポーズ”を繰り返し、最終的に私の粘り勝ち。 『イェ~イ!センキュー!』 上機嫌の私を乗せて、タクシーが走り出した。 もう少しで彼に会える。はやる気持ちを抑えながら、私は車窓の景色を目に焼き付けた。 ハバナに近づくにつれ、街中にクラシックカーが増えていく。60年以上前から時が止まってしまったような感覚になるのは、植民地時代のコロニアルな建物や、まるでアメリカン・グラフィティの世界を絵に描いたような年代モノの車たちのせい。 きっとこのエリアは世界遺産にも登録されているハバナの旧市街のはず。ハバナを象徴する風景の一つだ。私はスマホを構え、ここぞとばかりにその風景を写真に収めた。 大丈夫、彼に会うまでの時間も私は楽しく過ごせてる。言い聞かせるように頷き、抜けるような青空を仰ぎ見た。 どうせ彼の部屋に泊まるのだからホテルを取る必要はないって思っていたけれど、宿泊地がきちんとしていないと入国審査に時間がかかるって言われたから1泊だけ予約を入れたホテル。チェックインして、荷物を置いて、ベッドにダイブ。彼にホテルに着いたとメールして、ホッと一息ついたら、私はもう夢の中だった。 ハッとして起き上がり、時間を確認すると2時間が過ぎたところだった。彼からの返信はまだない。残業せずに帰れるよう、仕事を頑張ってくれてるんだと思う。 私は街を散策することにした。なんなら、彼が住んでいるところを見てみようと思った。だって、わざわざそのアパートから近いホテルを選んだんだから。 スマホの地図とにらめっこしながら、カラフルな街並みを抜ける。石畳の明るい路地に目的地はあった。街並みと調和した古い建物の2階が彼の部屋のはず。数日間、私がお世話になる部屋。 いないのは分かっているけど、”ブー”なんて鳴るチャイムを押しちゃったり。あれ、でもちょっと待って。水が流れる音がする。嫌なリズムを奏で始めた心臓を手で押さえ、もう一度チャイムを押してみた。 ドアに耳をつける。水の流れる音が止まり、バタバタとこちらに向かって駆けてくる足音がする。 反射的に身体を離した直後、勢いよく開いた扉。 私たちは、数秒間目を合わせていたと思う。そして、目の前にいる知らない人間に向かって、お互い思いっきり顔をしかめた。 「………誰?」
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