初日、おひとり様

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『……冷めた愛は氷より冷たいね…』 「¿Qué?」 “振られた”ってスペイン語で何て言うんだっけ?まぁいいや。私は胸の前で手を使ってハートマークを作り、それを真っ二つに割った。そして、泣き真似をした。意味を理解してくれたようで、同じテーブルの現地の人が飲め飲めとお酒を進めてくれる。いや、これは私が頼んだお酒だけど。 昔からこうして旅先で仲良くなるのが得意だった。彼は私のそういった性格についてこれなくなったんだという。だったらさっさと電話で終わらせて欲しかった。私は何となく終わりが近い事に気付いてたんだから。 だけどこうしてキューバまでやってきたのは、まだ少しの望みに賭けるためだったのに。誕生日に会えば、また盛り上がれるかもしれないと思ったのに。 いや、どうかな。別れ話になったりして。って今更もう後の祭り。 あぁ、本当に泣きたくなってくる。別れが辛かったんじゃない。嘘つきの大バカ野郎とそれなりの時間を共に過ごしてしまった自分に泣きたくなってくるんだ。 結局あの後、彼の同僚が日本に連絡をして私が訪ねた事を知らせたらしい。もちろん親切心から。 事が大きくなるのと思ったのか、私のメールを完全にスルーしていた彼から電話がかかってきた。 そうして、あっという間に別れ話。こんな知らない街でこの仕打ち。 きっと計画的なものだろう。だって私がキューバにいれば、彼は誕生日を日本で誰に咎められることなく、どこかの女に祝ってもらえるんだから。 『振られるために1万2千キロも飛んできたわけじゃないんだよー!このバカヤロー!』 ほんの少しだけ大声になっちゃったけど、気にしない。だって店内はライブバンドも入って賑やかだもの。 「なんか日本語聞こえたけど」 背後から皿を両手に持った店員がやってきた。その男は私の真横から手を伸ばし皿をテーブルに置き、客たちと笑顔で挨拶を交わしている。ハグをして、拳を突き合わせて、男同士の挨拶。女性とは軽く頬を重ねる。 “どうしたの?” “この子が振られちゃったんだって” 理解できる単語だけ拾って考えると、こんな会話がされたっぽい。そんなバラさなくても…って思ったけど…。 「凹んでんの?」   あっけらかんとした物言いに、”当たり前でしょ”と思いながら、その店員を真正面から見た。 「『…………あ、』」 二人の声がハモった。この店員……昼間の上裸バスタオル男だ。
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