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「あのさぁ、ああやって親しげに話しかけてくる奴に簡単についていったらダメだろ」 通りの端で縮こまる女と、その女の目の前で腕を組んで顔をしかめる男。 「高い金請求されたりするから気をつけろよ。あとニセの葉巻売りとか両替詐欺とかやってる奴そこらじゅうにいるから」 はたから見れば、今この状態の方が”脅してる男と、脅されてる女”に見えると思うけど。 「分かった?」 目の前で覗き込まれ、あまりの顔の近さに声が上ずっちゃった。 『は、はいっ』 ケンタは出勤前に用事を済ますためにこの辺りにいたらしく、なんか絡まれている女がいると思ったら私だったから助けたという。スペイン語で2人組の男に何か言って、追っ払って、説教。 「そんな洒落た帽子被ってサングラスなんてしてたら観光客丸出し。1人なんだからもっと気をつけろよ」 痛いところをつかれた。 『だって……てゆーか、よく私だって分かったね』 「あー……なんか…分かった…」 照れたように明後日の方を向きながら首をなでる姿に、さっき抱かれた腰が熱を持った。 「何買ったの?」 当たり前のように並んで歩き出す私たち。 『じゃじゃーん』 民芸品市場でお土産にと購入したマラカスを一つ取り出して、得意げに見せた。 「うわー……ど定番。ちょっと音鳴らしてみろよ」 少年のような悪戯な笑顔でいじめてくる感じ、嫌いじゃない。私はケンタの耳元で、思いっきり小刻みにマラカスを振ってやった。 「うるせーなぁ」 私の手首を掴んでマラカスを取り上げたケンタは、お返しとばかりに私の耳元でそれを振った。しかもリズミカルに。なんだろう、ちょっと楽しい。 「お前このマラカス持って店来いよ。んでウチのバンドとセッションやっちゃえよ」 こんな流れで、2夜連続でケンタの店に行くことになった。
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