-サフィールからアオイ-

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──side …── 『あぁ、お久し振りです。お元気そうで何よりです』 「珍しいな、お前からの連絡なんて」 『えぇ、シグレさんにお願いしたい事がありまして』 「…何?」 『もう近くに来ているのでお伺いしても良いですか?』 「あぁ?仕方ねぇなぁ。どんくらいで来られる?」 『あと15分くらい』 「早ぇなおい。…工房を開けておく。そっちに来てくれ」 『工房?それはまずい。別の場所にしては頂けないでしょうか?』 「…どう言う事だ?」 『後程全て説明します。ですがシグレさんの工房は呪符を扱っていますよね?それは…現状危険です』 久し振りの相手は元上官の息子。俺の方が10歳上だ。部下…とも言い難く、近い言葉は同僚だがそれともまた違う間柄。 ──面倒な案件そうだな。 息子から直々の連絡。わざわざ俺に振る事自体、面倒な案件でしかない。しかも俺の工房が危険と来たものだ。 さぁ、何をやらせる気だ? ダイニングテーブルに乗せられたシガレット形状の砂糖菓子を1本手に取ると、それを口に咥えた。 ────────────────── ドンドン、と裏口の扉が叩かれた。時間的に考えて元上官の息子。ダイニングチェアーから仕方なしに立ち上がり、その扉を解放した。 「シグレさん、突然すみません」 想定通り、元上官の息子が飛び込んで来た。いつもならビシっと着こなしている青い通常軍服が、どこかよれよれで泥まみれだ。 「らしくねぇな、シュタール」 「すみません…」 「礫も、泥まみれじゃねぇか」 そこで、礫が何かを抱えている事に気付いた。毛布にくるまれたそれ。泥だらけの毛布の形状から、それは人間。 「何、それ」 俺からの問い掛けに、礫はその毛布をそっと床に下ろす。めくれた端からは14~5歳くらいの子供の姿が見えた。 「暫定的にではありますが、この子供の保護をお願いしたいです」 「…待て、シュタール。何を…」 「また後程、説明に上がります。まだもう1人、探さなくてはいけないのです。この子供は所謂『例外』、シグレさんなら上手く扱ってくれるでしょう。そして管理課の保護対象となりました。下手な人には預けられない」 ──『例外』! 時折聞く存在だが、それは思いの外レアだ。その効力は様々で、一概にこう言う事と言えない。この子供がどう言った類の『例外』か、それはまだわからない。ただ言える事は工房に置くと危険な類の『例外』だと言う事。 「すみませんシグレさん、また後程お伺いします」 シュタールと礫、彼等は慌ただしく外へと飛び出した。 ──side Shigure── ───────────────── 預けられた毛布をそっと広げ、保護対象を改めて確認する。着ている服は泥で汚れはいるものの、質が良い物だとわかった。泥だけではない。血痕も付着している。衣類の破損具合から見て他者から受けた外傷ではない。 ──山中を彷徨った挙句、崖から転落…ってところか。 薮や枝に引っ掛かり付いた傷。外傷そのものは細かいそれが多く、所々大きく打撲をしているようだ。幸い骨折等はなさそうだった。多少なりに額や顔に出血を伴う怪我はあるが、傷が残る程のものではない。シュタールと礫の手により応急処置はなされている。だがそれはあくまで応急処置。呪符による処置はなされていない。 ──何故呪符を使わない? 広範囲に渡る傷であれば呪符による処置の方が明らかに楽だ。シュタールも礫も呪符を扱えない訳ではない。1枚も持っていないと言う事もないだろうに。 ──呪符を使ってはいけない類の『例外』か。 服は男物、でも見た目は女の子…にしては少しばかりしっかりしている。 「悪ぃな」 意識を失っている以上、返答はない。その上で声を掛け、そっと破れたシャツをめくり、傷の具合を確認した。本当は医師を呼びたいが、管理課が介入している今は勝手な行動は控えるべき。自宅のちょっとグレードの良いファーストエイドキットを持ち出して、改めて処置を施していく。 きらきらとしたプラチナブロンドは乱雑に切られて長さはまちまち。多少の血液も付着してしまっている。ろくに陽の光を浴びてなさそうな白い素肌は小さな傷と痣だらけ。 ──やっぱり男か。 服を着てしまえばわからないのだろうが、脱がせてしまえば一目瞭然だった。 ──────────────────── こんな綺麗な見た目の子供に着せるにはどうかと思ったが、そこそこの年齢の男の独り暮らしだ。衣類のセンスを問われても困る。ぼろぼろになった衣類は取り払い、とりあえず自分の甚平を着せてベッドへと寝かせた。自分の年齢を考えれば、これくらいの年頃の息子がいてもおかしくはない。 いたる所に滅菌パッドを貼られた彼を眺めながら、どんな経緯でここに連れて来られたのかを考える。考えるのだがわかる筈もない。 ──シュタールが戻って来たら尋問してやる。 ──────────────────
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