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カーテンを捲れば外はもう暗い。山中捜索などもう出来る時間ではなかった。呆れながらも仕方がないと、風呂に湯を張る。どうせシュタールも礫も今日は中央帰還できないだろう。
保護した小僧は処置をして俺の寝室に寝かせてある。当分起きる事はないだろう。タオルと着替えを用意して、2人の帰還を待つ。
インターホンが鳴る。タオルと着替えを手に向かうと、更に泥だらけになった2人がそこにいた。
「酷ぇな、おい。うちん中、泥だらけにする気かよ」
「シグレさん、すみません」
「まぁいいよ。ほれ」
タオルと着替えを投げ渡す。
「とっとと洗って来い。軍服もある程度まで洗ってやるから、どんどん脱げ」
追剝ぐように2人から服をもぎ取り、風呂へと追いやった。シュタールの通常軍服は流石に無理だから放置をする。礫の活動用軍服一式とシュタールのワイシャツはそのまま洗濯機へ放り込んだ。
「おいシュタール、こう言う時は活動用を着ろよ!洗濯機、壊れるじゃねぇか!」
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風呂から出て来た2人がしょげた子供のようにダイニングチェアーに腰を掛ける。俺を含めさすがに腹が減ったから礫をつつき、軽い飯を作らせた。シュタールに作らせてはいけない事を俺も知っている。だからシュタールには洗濯物を手伝わせた。
「まぁ食えよ」
「作ったのは僕ですよ」
「礫、てめー黙れ」
「はい」
それぞれが食事に手を付け、ある程度落ち着くのを待ってから肝心な事を切り出した。
「シュタールも礫も、隠し事はするなよ?」
「隠し事、ですか」
「俺はもう管理課じゃねぇが、てめーらが今回俺を巻き込んだ。だったら全部知る権利が俺にはある。だから全部正直に言え」
「わかっていますよ、シグレさん」
それでも腹の空き具合には勝てず、まずは黙々と食べる事を重視した。簡単なものとは言え、礫のメシは美味かった。
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かちゃり、と皿にスプーンとフォークを置いた。さぁ、嗣呉様による尋問の時間だ。
「シュタール、あの小僧は何だ?」
「彼は…山向こうのオーギュスト家の長男です。名前はルヴィ」
「オーギュスト…。家、燃えたって話だろ?」
「はい。中央隊の情報では見付かった遺体は3人。ご当主と奥方、それと…客人が1人。この客人の身元はまだはっきりしていませんが、どうやらご当主とトラブルがあった人のようです」
「…で?」
「この家にはご子息とご令嬢がいます。兄のルヴィと妹のサフィール。俺とレキが保護出来たのは兄であるルヴィのみでした。妹のサフィールが見付かっていません」
漢字がたくさん印刷された湯呑みに手を伸ばす。濁り緑茶が美味い筈なのに。
「小僧をここに置いて行ったのは、妹の捜索か」
「はい」
「で、手掛かりらしいものは見付かったのか?」
「いいえ、何も」
「捜索人員は増やせねぇのか?」
「管理課案件なので無理です。『影』は俺1人、『壁』はレキ1人ですから」
それに関しては仕方がない。『壁』を礫1人で請け負う事にしたのはこの2人の決め事。俺にはそれを責めたり口出す権限などはない。
「いつまで捜索を行う?」
「明日までの予定です。明日、見付けられなければ管理課はサフィールから手を引くしかありません」
「あいつ、ルヴィが『例外』だって言っていたな?」
「はい。彼等兄妹は厄介な『例外』です」
「…へぇ…」
「彼等は解放宣言を必要としません。呪符に触れた瞬間、即時で呪符の能力を解放します」
「そりゃまた便利なこった」
「…ですが」
「何だ?」
シュタールが言葉を止めた。
「『1』の威力の呪符を『10』にして即時発現させます。そこに本人の意思は関係ありません」
成程…。だから俺の工房は危険なのか。
俺は呪符作成職人、佐世嗣呉。工房には種類威力様々な呪符が保管されている。下手に小僧に触れたら…ここいら一帯が吹き飛ぶ訳だ。
「シュタール、小僧をどうするつもりだ?」
「…わかりません。この先は俺の権限ではなくなりますから」
茶を飲み切り、湯呑みを置く。俺は存分に優しいと思うぞ?
「シュタール、あの小僧をここへ置いて行け。上には発見出来なかったと報告しろ。お前には小僧の事を随時報告してやる。だから小僧の存在を隠せ。あいつが望めばだが、まぁきっと望む。そしたらお前の所に返してやる」
「…は?あ、シグレさんの判断がそれなら俺は従うまでです。これは機密事項扱いで問題ないでしょうか」
「あぁ。俺とシュタールと礫、それ以外には俺の指示があるまで覚られるな」
「了解しました」
俺はもう軍を離れている。だがシュタールと礫は俺に逆らえない。安心しろ、悪いようにはしない。小僧をここで匿った方が良いような気がしただけだ。
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