-サフィールからアオイ-

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──side Shigure── ──何だ、これは。 第一声、率直な感想がこれだ。 本日の天候は晴れ。風はほぼなし。 シュタールからの情報で、アオが『例外』と言う事は把握していた。どれ程のものか、確認をしておかなくてはならなかった訳だが、これはこれは…。 「アオ」 呪符をケースに納め、投げ渡す。ぱちん、とアオがケースを開ける。 「…出せば良いんですか?」 「あぁ、出せ。ダイレクトで来るんだろ?俺はガードするから遠慮はするな」 アオの右手斜め後方数メートルの位置を取る。右手で呪符を扱うアオを確認できる位置だ。シュタールの話から即時かつ増幅発動。必要とあらば自分で呪符を使いガードする。 「行きます」 その一言のあと、アオはケースから呪符を引き抜いた。 ぶわっ、と一気に空気がアオに集まり凝縮、それが爆発的に広がりアオを中心とした突風のような状態で吹き荒れる。砂埃が舞い上がり、周囲の視界を奪った。 ──何だ、これは。 第一声、率直な感想がこれだ。 ここが軍の演習場で良かった。大規模火力演習が出来る広い演習場で良かった。建物想定がない、丘陵タイプの演習場で助かった。 ぴしぴしと小石が身体に当たる。 ──俺はこんな強力な札を渡してねぇ。 アオに渡したのは子供でも扱える基本の呪符。体感する為だけの教材用の呪符。だからこそ効力も大した事はない…筈だった。事実、同じ呪符を俺が扱えばそよそよと軽く風を起こせる程度。 「アオ、ケースを」 返してもらったケースに1枚呪符を入れようとした。 ここは軍の演習場。多少大きな事をしても問題ない。これは俺が持つ特権。勿論技術提携と言う形でとある部署に対価は支払っている。 今後を踏まえたのならば、試しておきたい呪符はまだいくつかある。そのうちの1枚。これはアオにとってはトラウマであろう呪符。それをケースに収めようとして、やめた。 「アオ、もう1枚」 別の呪符をケースに入れてアオに投げ渡した。 「──!」 アオがケースに入った呪符に触れるタイミングを見計らい、自分が手にしていた呪符への解放宣言を行う。この解放宣言は自らを守る為の宣言。バチ、と火花が舞い散る。アオを中心に人為的な雷が放出された。超絶軽いスタンガン程度の電流の筈が、食らったらまずいだろレベルに昇華する。 ──こいつに呪符は確かに危険だ。 人を殺められる筈のない呪符で、アオは人を殺める事が出来る。意識的に呪符を避けられるなら問題ないが、それはなかなか難しい。アオ本人はそれを理解している。理解した上で、自分ではとても制御出来ないと判断をした。 だからこその『要らない』発言。 ──需要を感じていない人間に持たせておくのは危険極まりないな。事故はもう2度と起こしたくないだろうし…俺も起こさせたくない。 ふぅー、と長く息を吐く。 「アオ」 彼の名を呼ぶと共に1枚の呪符を掲げた。それは彼が最も嫌がるであろう呪符。事実、アオは俺の手の内の呪符を見て眉をしかめた。 「アオ、俺はお前の為にお前が望む札をつくってやる。だがな、お前はこの札からは逃れられない。いまは無理でも近い内にこれを受け入れろ」 「…はい」 アオが動揺するのは仕方がない。俺の手には発火の呪符。アオが暴走させ、全てを燃やしてしまった呪符。自分の能力を棄てる為には、自分のトラウマとも向き合わなくてはならない。 「いいか、アオ。辛い思いをして自らそれと向き合おうとして決断をしたお前は強い。だから俺はお前に力を貸したいと思ったんだ。大丈夫だ、向き合え」 この短期間で良くわかった。アオは見た目よりもよっぽど強い。物理的な強さではなく、精神的に、だ。下を向きうだうだ言う事もなく、真っ直ぐ上を向こうとしている。 ───────────────────
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