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神さまの慈善活動なんて、そう長く続くはずがない。
内心ではそう思っていたけれど、ミタライくんはいつまで経ってもこの食事会を終わりにしようとは言わなかった。
「期間限定、特大モンブランだって。佐伯さん、栗は好き?」
シャイボーイのミタライくんは、自分の話をするということがなかった。
そのかわり聞き上手で、私に対していろいろな質問をしてくるものだから、いつも私ばかりが話をしていた。おかげでミタライくんがこの会合を楽しめているのか、甚だ疑問だ。
なんの得もないのに、なんでミタライくんは私にご飯を奢るのだろう。
聞きたかったけれど、もう聞くことはなかった。私としては腹さえ満たせればなんでもいいのだ。
ただ。
〝その、奢ってくれる人ってどんな人なのよ?〟
……多少は神さまに興味を持ってないと、そのうち愛想尽かされるよね?
「ミタライくんってさ、学部どこなの?」
「え?」
試しにそう聞いてみると、ミタライくんは驚いたように箸を動かす手を止めた。
そして、ぽっと顔を赤らめる。
なんだその反応。乙女か。
「え、なんか変な質問だった?」
「あ……ううん。……児童学科、だよ」
「あ、なんか雰囲気合ってるわー。やっぱりあれ? 先生とか目指してんの?」
ミタライくんは首を振って「保育士」と呟く。その声があまりにも小さかったので、顔を近づけるとミタライくんはぱっと下を向いた。
「……六歳離れた妹がいてね。相手をしてるうちに、だんだん小さい子と関わることが好きになったんだ」
「へー、子供かぁ。私苦手だなぁ。最近の子ってなんかませてて、生意気じゃん?」
「——そんなことないよ! うちのお隣さんに五歳の男の子がいるんだけどね、本当に純真無垢っていうか」
珍しくミタライくんが雄弁に語り出す。私は頷きながら、その形のいい唇をじっと見つめた。
なんだ。喋れるんじゃん。
今までミタライくんのことを、顔のきれいな質問ロボットのように感じていた。それくらい、自分主体で話すことがなかったから。でもちゃんと自分の意思があるんだ。
そんなのは当たり前なんだけど、今まで素知らぬ振りをして自分語りばかりしていたことを少し反省した。
しばらくにこにこと相槌を打っていると、ふと、ミタライくんの語りが止まった。
そしてまた俯いてしまう。よく見ると、顔の赤みが耳にまで伝染していた。
「なんで、そんなに照れてんの?」
純粋無垢は、そっちじゃん。
「……恥ずかしくて」
私がぷっと吹き出すと、ミタライくんは「もう終わり」と言ってコップの水を飲み干した。
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