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それからも私たちは毎週金曜、食堂で短い昼休みを過ごした。
気づけば数ヶ月が経っていた。その間、私の中にはミタライくんの情報がゆっくりと蓄積していった。
高校の頃、全国共通テストでトップテンに入っていたこと。
両親はどちらも教師で、穏やかな家庭で育ったこと。
休みの日は家の中庭で、ゆったりと本を読んでいること。
私たちの性格や趣味嗜好は真反対で、まるで交わることがない。だからこそミタライくんのことを知るのはおもしろかった。いつの日か私は、週に一度ミタライくんに会うことが楽しみになっていた。
私たち、意外といい友達になれたりして。
——そう思っていた、矢先のことだった。
「……佐伯さん。最近、僕ばっかり話してない?」
いつものようにミタライくんの休日の話を聞き出そうとすると、不意に話を止められた。
思わず、カキフライをかじろうとしていた私の手も止まる。
「そう? おんなじくらいでしょ」
「ううん、僕の方が喋ってる。……気がする」
「いやいや、七三で私が勝ってるよ。たぶん」
ミタライくんの視線がゆっくりと下がっていく。何を言いたいのかわからない。
首を傾げていると、ミタライくんはおずおずと口を開いた。
「佐伯さん、僕のことは気にしないで、話したいこと話してね。僕の話なんて、聞いてもつまらないし……。遠慮しないで。せっかくのランチなんだから」
は?
思わず、言葉を失った。
なんでそんなこと言うの——そう口にする前に、「佐伯さんは先週のお休み何してたの?」などと聞かれ、私の頭はフリーズしてしまった。
……質問ロボット、だ。
なにこれ。これじゃまた、逆戻りじゃん。
なんと返したらいいのかわからなくなって、パスタを食べるミタライくんをじっと見つめた。そしてその瞬間、私はあることに気づいた。
ミタライくんと私の間には、壁があるんだ。
どんなに仲よくなってもなくならない、大きな壁が。それは透明な色をしていて、彼の体に触れようとした瞬間、ぴしゃりと指を弾かれしまう。
……だから、いつまで経っても私たちの距離は縮まらないんだ。
「じゃあ、ここで。今日もありがとう、ね」
外に出ると、ミタライくんはいつものようにお礼を言って児童学科の方へと歩き出した。
私はぼんやりとその後ろ姿を見送った。お腹はいっぱいになったのに、心は全然幸せになっていなかった。胃の中が、カキフライじゃないもので満たされているからだ。
それは、ヘドロのように黒くて重い、モヤモヤした気持ち。
気づくと、私はミタライくんを呼び止めていた。
「……それ、やめてくれない?」
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