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ミタライくんの足がぴたりと止まる。
そして、ゆっくりと振り返った。
「え?」
「それ、やめて。その……ありがとうって、いうの」
自分でも、想定していなかった言葉が出た。
そして、気づいた。自分がミタライくんの〝ありがとう〟に、苛立っていたということに。
毎回言われるお礼の言葉。相手を百パーセント幸せにするはずの、魔法の一言。
なのに、その〝ありがとう〟が妙に、癇に障る。
ミタライくんは少し離れた場所から私を見つめていた。
「……ごめん。気に障った? もう言わないね」
はっとした。
ミタライくんの、悲しそうな顔。目の縁がじわりと光っている。
——しまった。
口を開いた時には遅く、ミタライくんは道の向こうへと走って行ってしまった。
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