妹のせいで、いつも私は彼女止まり

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妹のせいで、いつも私は彼女止まり

「りっちゃん、光子のことをちょっと見てて」 母はいつも私に背を向けていた。光子から目が離せない、光子から目を離すときの母は忙しく家事をこなしている。父は忙しい母を手伝いながら、私を褒める。 「律子は本当に優しいお姉ちゃんだな」 私は、いつもいつも、優しいお姉ちゃんとして光子の面倒を見ている。妹の光子には軽度の知的障害がある。光子のせいで、私は学校でいじめられていた。 「お前の妹、馬鹿なんだろ?」 「馬鹿だから小学生になれない」 「お前も馬鹿なんじゃね?」 小学生男子の中で、こういういじめをする奴らは、一発殴れば静かになる。泣いたフリをして、隙を作って、三馬鹿男子を力一杯殴った。 三馬鹿男子は担任の先生にチクりに行った。しかし、私は学校でも優しいお姉ちゃんを演じ続けていたので、担任の先生は私の拳の怪我を見ても、三馬鹿が私をリンチしたと判断した。 クラスメイトは、普段は優等生の私が突然キレたことに驚いて、誰も真実を語らなかった。結局三馬鹿が怒られて、この事件は終わった。私の反撃が恐ろしいのか、三馬鹿男子は私へのいじめを止めた。 10歳の私はこの事件で学んだ。 普段、優しい優等生を演じていれば、大人でも簡単に騙せる。私は妹の光子を利用して、慈愛の聖女として生き続けていった。 しかし、社会人になり彼氏が出来るようになると、結婚の前に妹の問題が立ちはだかった。 「律子のことは好きだけどね…」 「他に好きな人が出来た…」 「妹さんの人生まで背負えないよ」 三人付き合って、三人とも結婚直前に逃げられた。妹の光子のせいで、私は結婚出来ない。もう29歳で後がないのに、ちくしょう! こんなムシャクシャするときは、両親の目を盗んで、光子の頭を思い切り叩く。光子は、壁に頭を打ち付ける自傷癖があるから、怪しまれない。 「お姉ちゃんが叩いた!」 小さな頃から、光子は何度となく両親に訴えてきた。でも、両親の前ですら慈愛の仮面を被り続けていた私。両親は私が光子を虐待したのではなく、光子がまたいつもの癇癪を起こしたと思い込んでいる。 そう、私は優しいお姉ちゃんなのよ。 一生てめえのお世話係をさせられるんだ。 小突かれたくらいでチクってんじゃねえよ、このカスが! 心の声を押し殺して、私は両親の前でさめざめと泣く。 「私はお腹を痛めて産んだお母さんと違って、光子に優しく出来てないんだよね。もっと優しくするようにする。ごめんなさい、お母さん」 母はもらい泣きして、 「そんなことないよ。りっちゃんは優しいお姉ちゃん。ついつい厳しくしちゃうお母さんよりずっと優しいよ」 私にハンカチを手渡してくれる。私はすすり泣きしながら、心の中で毒づく。 どこが厳しくだよ?私が結婚出来ないのは光子のせいだろうが!とっとと、こんな邪魔な奴、入所施設に入れろや。使えねえ、クソ親。 妹の光子は、どんなに訴えても無駄だと悟ったのか、大好きなお絵描きに熱中し始めた。27歳になっても子どもみたいな趣味と言いたいところだが、光子は見た物を写真に写したように描いてしまう。 この普通の人イメージする障害者とは違う、絵のお陰で私の家に何度かテレビや新聞の取材が来た。でも、物珍しがられたのも最初だけで、今は、都道府県の障害者文化祭などに、ひっそりと出展している。 私は光子のお絵描きを見て、あることを閃いた。光子の絵は知的障害者らしくない。世間一般がイメージする知的障害者らしい絵を描けば、光子の絵が売れるようになるかもしれない。 慈愛の姉がパレットに絵の具を出してあげて、障害のある妹が絵筆でキャンバスに絵を描く。いかにも、テレビや新聞が好みそうな、お涙頂戴なストーリー。 私は、部屋でお絵描きを続けている光子を脅した。 「また殴られたくなかったらお姉ちゃんの言うこと聞けるよね?」 光子の頭を殴るフリをする。光子は泣きそうな顔で、赤べこのように首を縦に振る。 こうして、奇跡の画家、赤西光子と献身的に支える姉、赤西律子が誕生した。
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