『第9話』・・・『生き霊』

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『第9話』・・・『生き霊』

 珍しく、冥界探偵ダジャレーの事務所に、依頼人がやってきた。  初老の女性である。  一応、断っておくけれども、ダジャレー氏は、わりに、二枚目である。  雰囲気が、なんとなあく、怪しいだけだ。  もともと、宇宙妖怪だから、仕方がない。  『じつは、最近、おかしな人に、つきまとわれているみたいなんです。』  『それは、いけませんな。警察には、行かれましたか?あちらは、ただですぞ。』  ノットソンが、せきばらいした。  『それが、じつは、だいたい、夢の中である場合が多くて。』  『(・。・)ああ、あるほど。』  『あの、夢の中でない場合もあるのですかな。』  ノットソンが口を挟んだ。  『あります。さきほども、そこの、自動販売機のところにいました。でも、まさか、夢の中に出てくるからと、逮捕はできないでしょう?』  『お知り合いですかなあ?』  『いえ、とくには。まあ、これだけ、人がおりますと、みなさまを、お知り合いとはまいりますん。越してきたばかりですし。』  『そりゃ、そうですな。だいたい、どういう、風貌ですか?』  『髪の毛がもじゃもじゃで、目がぬかけて、わりと、小綺麗なカッターシャツ、ベージュの普通のズボンに、いまどきは、サンダルです。』  『あたま、もじゃもじゃですか。いくつくらい?』  『まあ、60歳にならないくらいかなあ。ちょっと、わからない、部分がありました。幼いような、深淵なような。』  『あいつだな。』  『え?もう、おわかりですの?』  『いや、確定ではないですが。なんで、夢の中に出てくるのでしょうか?』  『それは、こちらが、訊きたいです。』  『ふうん。身に覚えはないと。』  『目に覚えもありません。』  『なるほど、押し掛け生き霊ですな。』  『え?いきりょう?』  『さよう。宇宙物理学的には、もつれ現象の一種です。夢の中で、まあ。ラジオみたいに。たまたま、相手の放送を受信してしまうのです。相手も、自分が放送しているという認識は、ない場合が多いです。まあ、受信周波数がたまたま、合っただけですな。意味はない。しかし、一度一致すると、再度受信しやすくなります。同調性向の上昇現象、と呼ばれます。慣れですな。ほっておくと、昼間に訪ねてきたりしますが、そうなると…………...』  『どうなりますか?』  『いやあ。べつに。まあ、近所仲良くしていれば、問題にならないです。それ以上は、この世の成り行きだけです。』  『そうならないように、してほしいです。わたくし、独身ですが、上流志向ですし。』  『なるほど、それは、さっぱり、ですな。なに、大丈夫です。送信を止めさせればよい。おまかせください。』      ・・・・・・・・・・・  一週間くらい後、彼女がやってきて、あれ以来、それは現れなくなったと言い、謝礼金やら、お菓子などもたくさん持ち込んで、厚く礼をして帰った。  『きみ、やましんさんに、なにしたの?』  ノットソンが尋ねた。  『なあに、覚えがあるか尋ねたら、ある。という。夢の中で、親切なご婦人が、話し相手になってくれるとね。で、昼間に自動販売機で、そっくりな人に出会って、ビックリしたらしい。』  『ふんふん。で?』  『あの女性は、宇宙妖怪だから、これ以上かかわると、喰われるぞ。て、言っただけ。わりと、単純だから、うまくいったろ?』  『そりゃあ、なんだか、紛争の種を撒いただけじゃないか?』  『やましんは、臆病だし、口は堅い方だから、問題ないさ。』  『いや、そうじゃなくて、近所だろ。』  『うん。引っ越してきたばかりだから、お互い、わからなかったんだろうが、道はさんで、反対側。すぐそばだな。また、出会うさ。』  『きみ、やはり、妖怪だな。』  『どうも、ありがとう。』  ダジャレーは、瞑想に入った。  深い宇宙の海に。  ダジャレー最大の敵は、おとなりの住民、宇宙妖怪ハンターの、ミス・テリーさんである。  ご近所とは、平和的に共存しなければならないのだがな、と、ノットソンは常に、思うのだ。      
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