屋敷に怪盗がいるらしい

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 今、我が屋敷に怪盗がいる。  怪盗と私しかいない屋敷は、静寂そのものだ。私の部屋は、特に静かだった。怪盗からの予告状が、月明かりに照らされて煌びやかに光る。 『拝啓オスヴァルト・ブラント様。今夜0時、貴殿の屋敷に眠る「黄金の手記」を10分で盗んでご覧にいれましょう。怪盗トゥエルブ』  今日の昼間に届いてから、文面を覚えるほど反芻していた。  今は、0時1分。そう、もう怪盗は屋敷にいるのだ。  確認はしていない。なぜなら、ものすごく怖いからだ。  考えても見て欲しい。相手は犯罪者。しかも予告状を出すような輩だ。普通に考えてみろ。めちゃくちゃ怖いだろ。なので怪盗は多分うちにいるとしか言えない。ソワソワしながら、ソファに座った。  今、0時3分になった。屋敷の構造的に多分2階辺りにいるだろう。1階から律儀に登ってきたらの話だが。玄関の鍵、こじ開けられていたら、嫌だな……  0時5分になった。そろそろ、この非日常の状況が面白くなる段階に入ってしまう。  ほんの少しの足音が聞こえる。人よりもデリケートな私は、彼が3階にいることが分かった。足音を小細工で消そうと、関係ない。  0時7分になった。因みに黄金の手記は、3階のダイニングにむき出しで置いておいた。黄金の手記を入れた金庫も高価だから、変に破られるぐらいならと、外に出してしまった。因みに警備は誰もいない。人を雇うのは、面倒だからだ。  0時9分になった。多分黄金の手記を見つけて、キョロキョロ見渡している頃だろう。よく考えたら、あの状態って見た目だけだとただの罠だよな。  0時10分を知らせるバイブレーション。スマホに設定しておいたものだ。スマホを消して、ベッドに入る。  10分経ったし、多分もう怪盗は帰った。それだけで、今日は満足だった。眠りにつこうとした瞬間、バンッと窓が音を立てて開く。 「ギャー!」  叫びながら飛び起きると、窓枠に少年が立っている光景が目に飛び込む。彼の手元で黄金の手記が光り輝いている。 「どうも、オスヴァルト・ブラントさん。俺様は怪盗トゥエルブだ」  少し声が震えているのは、気のせいだろうか。普段から人と話さないせいで、名乗られても返しが分からない。 「どうも……」 「どうも!?!?」  仮面をつけているにも関わらず、私の対応に彼から明確な怒りが滲み出ていた。大声に驚いて、ビクッとした私を見て、トゥエルブは黙ってしまった。  かと思えばカードを取り出し、ペンを走らせる。  風に任せてカードを床に、丁寧に黄金の手記を机に、おいた。  私がカードを拾っている間に、怪盗は闇に消えてしまった。  カードの内容は乱雑に書かれており、予告状のように月明かりでも見られる細工はしていなかった。目をこらすと 『大富豪なんだから普通に警備ぐらい付けとけ危ないだろ!!!!1ヶ月後にまた盗みに来るからな!!!!怪盗トゥエルブ ps.西魚警備がオススメ』 と、書かれていた。  どうも可愛いらしい怪盗が来ていたらしい。そんなに怖い存在でも、無いのではないか? いや、決めつけるには早急すぎるか……?  だが、久々に人の声を聞けて嬉しかった。彼の言う通り警備を置いてしまおうか。  そう思い立った私は、深夜だが警備会社に連絡した。もちろん、連絡先は西魚警備だ。  そして翌日、うちに警備員がくることになった。  人数は、とりあえず三人。できる限り物静かな人を選んで貰った。  そして、この中に怪盗がいる。声も見た目も別人だ。しかし足音は、昨日聞いたものだった。だが、私は気が付かないフリをした。  うちに怪盗がいるという状態も、悪くないからだ。
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