#賽は投げられた

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#賽は投げられた

“春輝さん、俺負けませんでしたよ” それは寒い冬がこれから襲ってくるであろう 12月の出来事だった… なんとなく耳には入っていたけど、 俺は志騎高にもう足を踏み入れる事がほとんど無くなっている。 どっかの学校と喧嘩してるんだっけ? ……正直、興味ねぇなって思っていた…… 夏月が居たら、もしかしたら… 急に飛び入りして全員めちゃくちゃにしたりとか、 していたんだろうか。 無差別に喧嘩していた時期を思い出して、 タバコに火をつけ煙を吸い込んでから吐き出すと、 不意に笑みが溢れた。 あの時は、やっぱり楽しかったな。 暫くして、煙草を吸い終え、 コーヤンから来ていたLINEに返事をする。 ”そっか、コーヤン強くなったじゃん…お疲れ… …あ、今度飯行かない?…話したいことあんだけど” そう送ると、 “今からでも行けますよ!…会いたいです” とすぐに返事が来た… 喧嘩した後って高揚感があるんだよな… 俺は勝っても負けてもただ笑ってるだけなんだけど… 負ける…? いや、負けたこと…殆どねぇか…… 勝てない喧嘩をしないって事じゃない。 力を測って喧嘩するなんて難しい。 思った以上に自分は強いのだろうか… …負け知らず…… 京極ゆかりが唯一、負けた相手だが…、 すぐに逆転させたから勝ちになるのか? 女に負けた悔しさは、はらわた煮え繰り返る思いをしたし…凄い努力したよな… そっか、今自分より上がわかってなくて… つまらなかったりして…な? 不意にコーヤンへの返事に咄嗟に嘘をつく。 ”ん、 今日は割と遠いとこにいんだよなぁ… 明日は? 焼肉いかねぇ? 奢るよ。 …今日疲れたっしょ…? ゆっくり寝て休めよ。 あ…ちゃんと なんか食ってから寝ろよー? 筋肉にも体にも負担かけたんだからさ  ” きっと今日会っても冷静に話したりなんか出来ないだろうから…休ませよう…… 前に薫と飛び入りで共闘したとき、 タロ先輩やハヤト先輩がすぐに会いに来た… 俺多分喧嘩の後にすぐ誰かに会ったりするの好きじゃないんだろうなぁ… 気持ちにまとまりが無くなったり、 一緒に喧嘩していたやつならまだしも… その場の現状知らなかったやつに急にあって会話したら全然言葉が纏まらないとかになるから、 情報整理する時間って大事だと思うんだよね。 コーヤンは今、興奮状態だろうから… 話したら支離滅裂になって俺の話も冷静に聞けないだろうし… そんなことを考えていると携帯の画面が光る… ”わかりました! 焼肉!行きたいです!!!” …これでいい… ”おっけ、明日の夕方行こ♡ バイクで18時くらいに迎えにいく〜 ” ”ありがとうございます!俺駅まで行けば良いですか! ” ”そうだね、駅待ち合わせで” コーヤンとのやりとりをしながらバイクに跨った、 冬の夜の走りは最高に気持ちがいい。 白い息を吐くと同時にまた携帯が光る。 ”わかりました!今になって身体痛いです!” フッと笑いが込み上げる。 言わんこっちゃない… ”そうだと思ったよ、最初はね…自分でも気づかないくらい興奮してて痛みとか気付かなかったりすんだよな。 ……だから、今日は早く休めよ” ”風呂入ったんで寝ます!おやすみなさい!” 不意にバイクのエンジンを切る… 俺…なんか…凄い先輩してんな。 こんな風に会話すること… 昔から考えらんなかった。 今までたくさんのことを頭の中で考えて、 あまり口に出さないようにしてきてた。 …適当に、頭が弱そうな馬鹿でさ、 裏に隠れて。 適当に生きるって、 カッコ悪いと思ってたんだろうなぁ… でも、コーヤンのまっすぐなところに引っ張られて、俺は俺でコーヤンに向かって言葉を投げてる。 嘘とか偽りとかじゃなくて、 今わからなくても、 いつかの…未来のコーヤンが俺の言葉を理解するのを“成長”を楽しんでた。 …後輩、悪く無いじゃん。 バイクのエンジンを今一度かける、 走り出すタイミングで無理矢理マフラー音を唸らせ ただ真っ直ぐに暗くなる夜道を駆け抜けた。 ……… 「さて、食うか…好きなやつ食べていいよ〜… 上タン塩食べようぜ。」 次の日、コーヤンの痛々しい姿を見て笑いを堪えながら席に着いて一言放った。 焼肉といえば上タン塩を食べなきゃ始まらねぇ。 「コーヤンは焼肉何が好き?」 「俺はカルビですね!ネギ別で頼んでも良いですか?」 普通だ…… 凄い普通の答えだ。 カルビかよ!カルビじゃなくてミノとか言っとけよ……なんて要らないことを頭の中で考えていた。 「おっけー、適当に頼むね… すみませーん。 えっと、特上カルビ2人前と普通のカルビと…チョレギサラダと牛タン塩を上で! ユッケとーーー…ミノとホルモンでしょ…ご飯大盛り2つで、 あとチゲスープ!!! …ネギ増したいからネギだけなんか増し増しに追加で。 …後はまぁ、また追加するからそんなもんか… お願いしまーす」 早口に俺が言うとコーヤンが唖然としていたが、「あ、注文すみません…!」とメニューを閉じた。 どうせ、奢りだと思ったら遠慮したりしそうだからな…俺から攻めていかないと律儀な性格してそうだし適当にたくさん食わせよう。 店員を呼んで軽く注文を終えたことで、 …本題にでも入るか…… 「…つか、連絡してくるくらいだし、昨日は手ごたえあったの?」 「手ごたえ……手ごたえなんですかね…」 昨日の威勢とは別にコーヤンは落ち着いた口調で話す…やっぱり1日開けたのは正解だったな… 昨日の文面と今、面と向かって冷静な表情のコーヤンを見れば違いがよく分かる。 「ダチが倒れてるの見ても怒りとか湧かなくて、 こいつらも自分で考えてここに来たんだよなー俺と一緒なんだよなーって見れて、 隼人さんが最後に立ってるの見て、 自分がしたかったことが達成出来たっていうか… 胸んとこぐわーって熱くなって… 春輝さん!…って思ったんですよね」 …そこで…俺か… 稽古をつけたりはしたけど… ハヤト先輩の周りにだって3年生もたくさん居た中で俺の名前を出すのはコーヤンくらいなんじゃ無いだろうか。 面倒を見るなんて中学の時の俺からは考えられないことなんだけど、どうも放っとけない辺り… 俺にとっての“お気に入り”なんだろうな。 なんて…そんな事を思っていた。 「なんとなく話は聞いてたけど、勝ったんだ。 まぁ、勝たなかったらちょっと興味湧いたかもしんないけど…」 いつものように飄々と優しく声に出す。 適当な相槌… 興味なんて全然なかったし、 勝っても負けてもどっちでも良かった。 それより、今、 不意に頭の中で今までの事が過っている また名前に上がるのは「ハヤト先輩」 誰もが口にする名前… 「ハヤト先輩か… ねぇ、コーヤンはハヤト先輩の事どう思う?」 一度会話をしたことがある。 その時は優しくて、 やけに落ち着いていて大人っぽく感じた。 ひとつひとつを冷静に見ていた、 ふざける俺にも真面目に言葉を紡いだ。 律儀な人。 天下一の時も最後まで見てなかったから喧嘩するところは今まで見たことがない… 勿論向こうも同じだろう。 ただの“話したことある知り合い”それだけだ。 友達にしては遠くて、 誰かが知ってるから知っていて、 名前だけは知れ渡っていて… ……力を貸して欲しいと言ったら、 貸してもいいかなって思える人ってくらいには、 周りが認めてるだけの威厳があるように思う。 逆に、求めたら見返りもなく力を貸してくれる。 そういったイメージだった。 「俺は隼人さんに挑戦したいんです。 勝てないだろうって思うけど挑戦はしたい… 昨日行ったのは隼人さんが目的の人のところに行く手伝いをしたかったんです。」 「…挑戦か…挑戦する理由ってあるの? 挑戦したいから昨日動いたってこと?」 俺自身、タイマンは今までやったことがなかった… めんどくさいと思っていたし… でも、挑戦したいってそういう事だよな。 そこには一体どんな意味があるのか…… 今の俺には検討がつかないなぁ… …俺がもし、ハヤト先輩とタイマンしたら… …どうなんだろうな… 「まぁ、どんな奴らが相手なのか俺は分からないけど…何かを得られた?…」 コーヤンにとってのケンカが くだらない返答だったら、 むしゃくしゃするかもなぁ…なんて、 俺は食事の前にも関わらず煙草に火をつけながら質問をしてみた。 「卒業までに治んないようなケガしてほしくなくて… 大人数でのケンカは初めてだったので経験になりました! 学校同士のケンカって本当にあるんだなってのも思いました……」 うん、普通だな… まるで感想文みたいな ありきたりな解答だったので、 わざとコーヤンに向けて煙を吹きかけてみるが、 焼肉屋だからコーヤンまでは届かずに排気口へと向かって消えていった。 「そっか…コーヤンって優しいよなぁ…… あ、肉来た!…タン塩から焼いていい? カルビ味濃いから後がいい」 俺が店員から即座にタン塩を奪いコーヤンの返事を待たずに網に投げ込む。 「タン塩からにしましょう!春輝さん奉行ですね」 「いや、肉は順番と焼き加減命だからな…??!」 柄にもなくコーヤンにトングを突きつけると目を丸くしていた。 これだから甘ちゃんなんだよなぁ… 「キャンプとかレジャー行ったらもっと俺は、うるせぇよ…サバイバルとかやんない? …知り合いによく無人島サバゲーしてるやつ居るし今年もやったし……焼肉は、まだソフト」 そう言って網に手際よくタン塩を並べると、 「あ、肉…あ!すみません」と慌てているが手を出さずに見守っていた、 また俺に文句言われるのを回避するのは正しい判断だ。 「知り合いって豪さんですよね!?ガチじゃないですか!豪さんお元気ですか?」 と不意に言われ一瞬戸惑う。 …ちょうど最近、豪ちゃんとは大喧嘩をした所だ… パワーで押してくるから肋骨折れるかと思ったが… 顔面殴ったら大人しくなって俺の話を理解してくれた。 優しいからこそ… 今ちょっと突き放してんだよな… 「あー、……豪ちゃんは確かに強いし…レジャーもうまいけど虫ダメだからサバイバル系はそこまでガチ勢じゃねぇんだよ… 他にいるよ、そういう仲間が。 ……そっか、コーヤン誘うのも良かったのかもな…… 豪ちゃんは仕事忙しいし、 来年嫁との結婚とかで忙しいんじゃない?多分。」 多分…ね、 はっきり言ったら口をあんまり聞いていなかった。 これからのことを考えたら… それが正解なんだろうけどな。 「…豪さんたしかに虫嫌がってましたね!思い出して、いま面白いです。 あのときは笑う余裕なかったなー…… って…… ……豪さん結婚するんですか!!女の人ですか…?!?」 それを聞いてコーヤンの皿にタン塩を入れながら笑い出しそうになるのを堪えた。 確かに見た目がゴリラ級だが口調が乙女だもんな…普通に喋ればただのガツガツな雄なんだけど。 みんな知らねぇもんなぁ… 普通の男子なんだってこと… 「豪ちゃんは話し方、アレだけど女性と結婚するよ…めちゃくちゃ怖い鬼嫁だから、嫁は男みたいだけどね…ゆかりでも従うくらいには怖い女かな。」 「ゆかりさんが……」 興醒めしているコーヤンを見たところ、 夏休みのゆかりに行かせた訓練最終日… ちょっとは動きとか見せたんだろうか…? ゾッとした顔を見て、 そんなコーヤンも見てみたかったなぁなんて思った。 2人でタン塩を黙々と食べはじめ静かになったところでカルビを入れて焼き始める。 肉を見ながら昔のことを思い出していた。 喧嘩か… 「喧嘩って人数居ると、また違うよね〜… 中学では他校荒らしに行ってたから良くあったけど……コーヤンはケンカ、好き?」 俺が改めて話し始めると眉間に皺を寄せ難しい顔をして、薄ら笑いながら 「他校荒らし…うちの中学に来なくて良かったです!」 なんて言ってくるから、 ハヤト先輩とタイマンしたいくせに学校荒らしにきた俺と対峙するのは嫌なのかよっ…と内心不貞腐れそうになったのをタン塩と一緒に飲み込んだ。 まぁ仕方ないか… 俺大抵は喧嘩ってなったら対面するの嫌われるから。 「……春輝さんに教わってから半年くらいケンカを定期的にって言ったら変ですけど、 まあ、定期的にしてたんです。 それで…好きか嫌いで言ったら “嫌いですね!” いてーし、相手もいてーだろうし こんなん言ったら隼人さんにケンカしてもらえないかも知んないですけど!」 それを言われて、思わず支離滅裂なコーヤンが可愛くて腹の底から笑いが出そうになった。 おいおい、それでいて今回行ったのかよ。 「…はは、ウケる。 嫌いなんだ…?だけど、続けた…か、それは自分の限界を知りたいって感じ? 漢なら…テッペン獲りたいってやつ?」 コーヤンにそこまでの意欲があるのかは知らないけど興味が湧いた…何考えてんだろう…… 「俺はテッペンとかいいです。 憧れてましたけどやっぱり向いてないっていうかなりたいと思わないです。 ケンカは使わなきゃいけないときに使えると良いな、とは思います。 輝田のときとか……春輝さんが来なかったら… 本当にありがとうございました。」 網の上で元気のいいカルビを目の前に頭を下げるもんだから、 その間に良さそうに焼き上がったカルビをコーヤンの皿に積んでいく… そう“今は”それでいい… 無理に上を目指した所で高いとこにいるとつまらなくなる…高校1年生だもんなぁ… いつかきっかけで高みを目指すような衝撃がコーヤンに来るならその時でいい。 「なんだよーーー、1年の期待星!!! …みたいなイメージだったのに、…やっぱり見た目よりコーヤンは優しいやつだよなぁ〜…」 俺の声で頭を上げてカルビを目の前に目を瞬きしている… 「ギャップすげぇからボコボコにされてたあの時、 悪いけどちょっと笑っちゃったよね。 可愛いやついんなぁって。 まぁ、それがコーヤンらしいってやつなんだけど。 ちょっと安心したかも。」 俺がいい終えてからカルビを食べるように進めると「はい」と静かに食べていた。 それを見ながら話を続ける… コーヤンに出会った時のことを思い返していた… あの日…ただただ絵を描いていた日… ”お前ら全員ごちゃごちゃうるせぇ、見た目がどうだ、弱いからなんだ、そんなのテメェらに笑われる筋合いねぇんだよ!!!!!” …あの時コーヤンが叫んだ言葉、 割と鮮明に覚えていた…… 何故かって小学生の時に俺も同じような言葉を吐いたことがある… “見た目で判断してんの?…舐めてかかったら痛い目見るよ…” …見た目… そう、俺は目立たないように 真っ黒な髪で眼鏡を掛けていた。 テンプレのガリ勉… 小学生… クソ生意気な餓鬼。 …成績は満点ばっかの、つまんないクソガキ… でもそれを辞めた時に出た言葉だった… 夏月の真似をして悪態をつきたくなったんだったかな…コーヤンは“見た目”からキメようとした… そういうの嫌いじゃないんだよなぁ… 寧ろ俺もそうだったから。 口だけって嫌いなやついるじゃん? …でも、口に出さなきゃ叶うもんも叶わない。 暗示って言葉があるように、 言葉には力があると俺は思ってるし… なにより… 夏月がそうだったから…   「あの時はさ…正直調子乗ってたってやつじゃない? 普段なら、あんましたく無いことやってたなぁって今更恥ずかしくなんだけどね… ………でもさ、 悪く無かったよ、 改めて自分を見直す機会にはなったし…」 助けたことに後悔は無いし、 今こうやってコーヤンと話してる事だけで 満足だった。 「春輝さんが助けてくれたのは柄じゃないってやつなんですね。 俺、昔の不良が好きで真似してましたけど自分がなるのは違うんだなってなってから分かりました。 見た目だけのファッション不良です!」 「いや、見た目も大事じゃん? ファッションやルックスってある意味ポリシーだし… まぁ、こだわりってやつ。 俺だって派手なのが1番好きで、 こんな感じだったりするしさぁ…?」 その見た目、高校の間だけでもいいから 変わらないで欲しいな。 俺が単純に思ってるだけだから口にはしないけど、 凄い好きなんだよなぁ… 並んで歩いてたら、それだけで周りが“うわっ不良”って一歩引いてくれる感じ… 一緒にいると居心地がいい。 そんな見た目の話から夏月を思い出していた、 高2の初めTwitterを始める前に同じようなカラーにしたんだよな…今抜けて俺は金髪になってるけど、 2人並んで赤っぽくしてたの… 勝負してるって感じでさ…好きだった… まだコーヤンが居なかった高校1年の時は 2人して暴れまわってたっけ… “鷹左右兄弟”って呼ばれんのも嫌いじゃなかったのにな。 2人で初めて見たTwitter つまんないからって、ろくに学校も行かずだったからTwitterが無かったら知らない奴もたくさん居たかもな… 「まぁ…兄貴居ないから面倒くさいケンカに巻き込まれなくて済んでるし… 大体、頭潰しに兄貴が走ってくから雑魚潰してばっかで怠かったし。 そういうのも楽しかったけどさ…? …… 兄貴とハヤト先輩とぶつかるのは見てみたかったかな… そしたら、タロ先輩とか出てきそうだし今考えると無くてよかったのか… タロ先輩みたいなの、いっちばん嫌いだから。」 喧嘩の話から“兄貴”と夏月を表現してみる… すると急に目を光らせてコーヤンが、 「夏月さんもお元気ですか?高校は休んでんすかね? 隼人さんとぶつかってたら2年対3年みたいな激アツ展開来たかも知れないですね!!! んで1年はおそれをなすっていうー……」 俺に向かって早口に楽しげに話し出したのを見て、 …夏月を………知ってんだっけ…? いや、もし会話してなくてもあれだけの素行と振る舞い…知らないやつの方が少ないか…? 「たまに連絡とるけど…夏月ね… うーん、コーヤンが知ってるかワカンねぇけど… 俺たちの親父はヤのつく仕事してるから、そっちに居んじゃない…かな… あんま連絡とってねぇんだ… 死んでないのは確かじゃん? 連絡無いし… つーか、、激アツか!!! まぁ、あるかもなぁ… 夏月は多分1人で全員に挑むだろうけど。 …で、俺は見てるだけ? …そうなってたら、コーヤンとはこんな風に焼肉食ってなかったかもな。」 激アツなんて言葉久しぶりに聞いた。 「夏月さんが家にいるって正確には春輝さんでも分かんないんですね、、その連絡って死んだときのじゃないですか!!!」 いいツッコミが入って本当に笑ってしまってから 口を開いた。 「まぁまぁ、 干渉するまででもないんだよ、 俺は別にそっち側じゃ無いし。 望めば行けるかもしんないけど…俺は、夏月と並ぶより今が1番いいって思ってんだ。」 暫くだんまりになりながら、 次々と2人で肉を焼く。 その先の言葉が見つからないのか沈黙の中、 肉を食べるだけの時間が流れた。 何考えてんだろ…、 この辺りで話、しめとくか… 「……でも、コーヤンが俺みたいにならなそうで安心したよ。 …シキコーを守れよ。 三年生居なくなってもあの場所… ハヤト先輩が作り出した空気をさ。 きっと、 お前なら出来るだろうから。」 先に口を開いたのは俺だった。 これだけ言えればいいかとも思っていた。 “話したいこと”はまだいいような気がする。 「春輝さんみたいにって、俺は春輝さんみたいになれても嬉しいですよ!!!どこの部分のことか分かんないですけど! 春輝さんがいてくれるのは嬉しいです!!!高校に通ってくれてる内は近くにいる気がするっていうか……」 俺みたいになる…って… コーヤンから見た俺ってどんなだよ… きっと知らない部分もたくさんあんだろうけど、 いい人間では無いと思うけどなぁ… 「いやぁ、俺みたいになったらコーヤンが、 ちゃらくなっちゃうよね〜?…ちょっとそれは… …見てみたいけど」 みんなから散々チャラいと言われたせいか、 自分でネタにして誤魔化すように、 「あ、今、今だよ.ほら肉食べて、これもいい感じ」と無理矢理皿に盛っていく。 ……近くにいる……か…… 黙々と積まれた肉を食べるコーヤンを見ながら。 「……俺はシキコーから消えてもコーヤンがピンチの時は駆けつけると思うよ。 まぁ、連絡くれればだけど…」 俺が言った後コーヤンは食べるのをやめ真剣に 「そんな風に言われたら、俺すぐ連絡しちゃいますよ。」 と言ってくる。 俺が口を開こうとするとホッとした顔で急に 「それ聞いて安心しました…スッといなくなっちゃうんじゃないかって怖かったです。」 震えながら口にした。 なんか、悪いことしてんなぁ… 後輩イジメをしたいわけじゃない…けど…俺は… 消えたいときには消えるよ? 保証なんかできない… もう、 振り返りたくないし後戻りはしたくないから。 「みんなそういう風に思ってんだよなぁ… 俺のこと…… まぁ、少し前までは… 消えたい願望もあったよ。 …焼肉屋で話す内容じゃねぇけど…自殺未遂したぐらいには追い込まれてた。 でも、そうなってから気付いたんだよなぁ…… 何かを我慢するの、 辞めようって思ってさ。」 コーヤンは静かに俺の話を聞いていた… なんか暗くなっちゃったか? 「まぁ、くだらない内容で電話して来たらコーヤン殴りに行くけどな… 死ななきゃいつでも会えるし、携帯あるんだから通話ぐらいできるでしょ。 そんなすぐ縁切ったり、 携帯止まったりするような人間じゃないから安心して…お金には困ってねぇから。」 俺がジョークを交えて言うと 「会えんなら良いです」なんて優しく笑って深く追求はしないでくれた。 心の底から信頼できる“いいやつ”って感じがする… …万が一、俺が騙そうとしたら、 騙されちゃいそうなくらい… 、 …警戒… しろよな… … カランッ     ふと箸が手から滑り落ちる、 暗い場所に落ちてうまく拾えずにいると コーヤンが拾ってくれた。 「あれ?春輝さん目悪いんすか?」 ちょっとドキッとした… …わかるのか…? 前からコーヤンって勘がいいんだよな… 雅人との対峙した時だって… “危ない事に巻き込まれてないか” いち早く気付いたのはコーヤンだった。 すぐ俺より強くなるだろうな…なんて… 時々思ったりもする。 「うん、悪いよ目… ハッキリ言って相手にハンデあるレベルで悪い。 感覚の方が俺の世界では大事なんだよね…コーヤンに会った時からそうだったよ。 だから何だって話なんだけど、 これ言ったら変に心配されたり手加減されたりすんの嫌で、基本は言ってねぇんだけど。」 嘘なんかついても、 意味ないだろうからハッキリと口にすると 「感覚……それはなんとなく分かります… 春輝さんの戦い方見てると。 俺は完全に目に頼ってますね。」 なんて言ってくるから改めて思う。 やっぱり…な、俺って喧嘩がはじまると片方に寄るのが嫌で目を瞑る時もある。 誰もが違和感を覚える筈だ… 見えづらいサングラスをかけてることも、 相手を馬鹿にしてるわけじゃない。 ワザと視界を濁してる。 ……、だから、極力… 特に天下一みたいな場所では戦わなかった…… もう慣れてるからどうって事ないんだけどな。 これに辛いなんて言ってらんないし… 「そうだ、聞いてください 俺昨日ナイチンゲールの気持ち分かったんですよ。 映画とか漫画では呻きながら倒れてる人放置じゃないですか。 あれ、現実で自分が意識あったら放っておけないです! どこ高か関係なく安全なところに運ばなきゃって気になりました!」 急に思いついたようにペラペラとコーヤンは話し出す…いきなりナイチンゲールかよ… 「意外にオタクっぽい話し方すんなぁ… ナイチンゲールか… 敵味方関係なく放って置けない感じ…ね… もしどっちかしか救えなかったらどうする? …知り合いの学校のやつと相手の学校のやつと。」 俺が質問をすると恥ずかしいそうに、 「オタクっぽいですか!!? すみません、不良漫画とか好きで、 その話になるとテンション上がっちゃって! ……はずいっす」 なんて横目に頭をかいていた、 不良漫画か…昔からよく出てるけどやっぱり興味なくてあんま見てないな…アニメとか漫画そこまで見ねぇんだよな。 「オタクっぽいよ。 夏月は不良漫画好きだったけど、 俺ファッションとかにしか興味なかったからコーヤンの話し方から好きが伝わって来て笑いそうになった… 嫌いじゃねぇよ、そーいうの。」 俺が少し冷えた焼肉の続きを食べ始めると、 コーヤンが急に口を開き、 「知り合いと知らない人だったら俺は知り合いを助けます… …優先順位を付けないと動けなくなりますね」 なんて真剣に顎に手を当てながら考えているようだった。 「…コーヤンはそういうタイプなのか…」 全ての肉を食べ終わったのを確認してから 箸を置いて机の上にあるメニューの紙を広げる。 「ビビンバ食いたいです。」 俺がメニューを広げたのをいい事に急に発してきた、すげぇ食うな… 「ビビンバかぁ、俺は冷麺だな。 …つか奢りって言ってんのに容赦ねぇくらい食ってんな。」 「昨日使った分を補給してる感じがします!食べると全身にめぐるっていうか!」 そうそう、食べ盛りの時は食べた方がいい。 そんなことをよくパチスロの常連のオッサンに言われる。 …最近会ってねぇな…あのおっさん… 「まぁ、まだ若いから今のうちにいっぱい食って力にしような。 おっさんになったら横に出るだけらしいからさ。 チャンスは今しかねぇよ」 「春輝さんがおっさんみたいです」 コーヤンのツッコミがだんだん様になってきているのと居心地の良さに溺れそうになっていた。 返しががうまいから話してんの楽しいな… ビビンバと冷麺を食べながらたわいもない会話が続く…そろそろ、さっきの話に戻すか…… 「……じゃあ、さっきのさ、男と女だったらどっち助ける?」 「男女…2人とも知ってる人なら悩みます……」 暫くコーヤンが食べるのをやめビビンバと睨めっこを始めたから、俺から口を開く事にした。 「俺は助けないよ。 どっちも助けない。 喧嘩だったらね… ついでに男女になったら、 女を助ける。 やっぱ男だし、 下心の方が直感的に動くよ。 コーヤンは判断が遅いなぁ〜〜 まぁ、 その時になったら直感的に動けばいいと思うよ。 後から後悔してもいいんだからさ。」 と言い終わってから、冷麺を啜って食べ切る。 …最後の質問してみるか… 「……ねぇ、 もし俺と何かあって向き合う事になったら、コーヤンは俺に拳を振るう?」 コーヤンはビビンバを食べきって手を合わせた後に真剣な表情で 「俺は、まずは話したいです。」 と言った。 「話か…コーヤンが気に入らない回答だったらどうする? っても…まぁ、肝心な事なんも話さないからね。 別に頼れないんじゃなくて、 人を選んでるだけなんだけど… 俺、質問ばっかでしょ? 選んでんの。 話せる人と話せない人を。 でもそれ、みんな言葉にしなくても当たり前でしてんだよな。 仲がいい悪いも、それで勝手に決まるし、自意識過剰な奴はムシャクシャしたりな。」 なんだか伝わってないような気がしたので、 何となく言いたいことを言ってみる。 「そう言われちゃうと俺は春輝さんの話せる人になりたいって思っちゃいますね…」 この目…純粋な感じ…ちょっと苦手だなぁ… ただ、…さっきも思ったが話す気は無かった… 俺が黙っているとコーヤンから口を開く。 「気に入らないから殴るって必要なことなんですかね… 春輝さんが春輝さんを傷付けるような選択をするなら殴ってでも止めるかも知んないです……」 真面目な答え… 「…お、結構欲張りなんだなぁ。」 返答に困り笑って誤魔化すと 「高校入ってからわがままになることも教わったんで」なんて言うから、 「え、誰に教わったんだよ!?」と声をあげてしまった、シキコーにそんなこと言うやついんのか。 大人になるために我慢しなさいってのが大概言われんじゃねぇの? ……… 「正直今のところいねぇんだよ… 何でも話せるやつとかさ。 2個のサイコロ振って同じ目がお互い出続けるぐらいの奇跡が起きなきゃ無理だなって思ってる。 コーヤンがいつか奇跡を起こしたら考えちゃうだろうけど…」 言葉を続けるのが嫌になって煙草を吸い始めた。 ボロが出そうな気がするから。 コーヤンはいろいろ考えているのか2人でだんまりしていた。 ふと 携帯が光る… 内容を確認しようと トイレに行くついでに立ち上がるか迷っていると、 コーヤンの先程の言葉が繰り返し頭に流れ込んだ “春輝さんが春輝さんを傷付けるような選択をするなら殴ってでも止めるかも知んないです……” 傷か…… 「傷つけるって、体に傷を作るって意味?それともここ?」 心臓の辺りを親指で指して“心”の意を示すとコーヤンの頭の上に「?」が出てるような感じだった。 「まぁ、俺のこと知っても大した中身じゃないんだけどね〜? 俺を知りたいってやつは、 相当モノ好きだなぁと思うよ…」 タバコの火を消して、話を変えようと 「あ!デザート食べる???」 なんて濁してみた。 コーヤンは俺からメニューを受け取りじっとメニューを見つめてから喋り出した。 「デザート…杏仁豆腐…いやコーヒーゼリー…コーヒーゼリーにします!焼肉屋にあるんですね!」 「確かに喫茶店見たいだな。 コーヒーゼリーにアイス乗ってんの好き。 俺アイスにしよっと、桃の中に入ってるやつ!!!」 「バニラアイス乗ってるの美味いですよね!じゃあ頼んじゃいますね!…ほんとうご馳走様です!」 食い物の話で逸らし過ぎか? なんて思ってると関係ない質問が来た… 「春輝さんいつからタバコ吸ってるんですか?」 「タバコは中学から〜」   「中学から!!!絶対止めれないやつじゃないですか!俺長生きするんで、どんな生き方するか春輝さんに見ててほしいです。 春輝さんも長生きしてくださいよ。」 「まじかぁ、残念だけど二十歳まで生きるかなぁ〜…?頑張るわぁ… 後一年くらいしかモタねぇ気がしてきたぁーーー…」 とダラけて見せる。 ……消えそうな気がする…か、 …きっとそう思われてんだろうな… 怪訝な顔をするコーヤンに、 そっと立ち上がって近づく… 「ってのは冗談。 コーヤンの成長見てたいから俺は生きるよ… てか、お前の中にずっと俺はいるだろ。」 トンッとコーヤンの胸元に拳を軽く当てると、 少しだけビクッと震え何かを言いたげに 驚いて俺をみていた。 「…な、だからお前が死ぬまで俺は生きてるよ。 ちょっと、厠行ってくる。」 コーヤンの言葉を聞かずにゆっくりトイレに向かった…用を足した後に外に出て電話をかける。 「なんかわかったのか?」 電話の主からは“確実じゃないけど”と言われた。 未だに広がっている俺がこの世から消したい薬物… “BLACK OUT”… 未だに出どこは掴めないが、 調べ続けて、ゆっくりと近づいている… 情報がまだ足りてない… 前にハヤト先輩にもタロ先輩にも気にかけてほしいって行ったけども終わったと思ったらまた出回っていると言う話までは出来てなかった。 先輩達、卒業だし…迷惑かけてらんないよな… …通話を切って、新しい情報を閲覧する… … …いかねぇとな… 足早にコーヤンのところへ戻ると ぼんやり考えごとをしてるのか、 お腹いっぱいで眠たいのか分からない顔をしていた。 俺が返ってきたのがわかると、 ハッとして崩していた体勢を元に戻す。 「春輝さん、話したいことって何ですか?」 気になってたんだな… まぁでも、 …話したいことは、今じゃない、な… この先話すのかどうかもわからない… 「…あーーーー…やっぱいいや、忘れて。 話したいこと、無いよ。」 「話したいことはもう話したってことですか…? 春輝さんがそう言うなら忘れますけど…」 「話すのはやめた。 さっきも話したけど俺とコーヤンのサイコロは今日、全然同じ目が出なかった…ってこと。 まぁ、悩まなくていいよ。 きっといつか… 知る時はくるからさ… その時まで、強くなって待っててよ。 力借りたい時は、 連絡する。 な。」 “もしかしたら、これが最後かもしれない…” 「…さて、デザート来たし食ったらさっさと出ようぜ♡バイクで走りに行こ。 寒空の下の空、 めちゃくちゃいいよ。 食ったら運動運動♬」 デザートを頬張りながら色々と考えを巡らせているようで、ちょっと微笑ましくなった。 「……春輝さんの言ってること難しくて分かんないですけど、俺は強さを求められたときに強い俺でいれば良いってことですよね…… バイク、あざっす!乗ります!!!」 「そーそ、それでいいんだよ。 コーヤンに出来ること、 これからも絶対あるしさ… それにすぐわからなくたっていつか、 …わかる時が来るよ。 ふとした時に俺の言葉を思い出したりさ… …よし、行くか!」 食べ終わって会計を済ませ外に出ると冷たい風が吹きつけた。 「あーーー…さみぃ…♡ …軽くバイクで走って、 コーヤン家まで送るね。 はい、メット。 ………あと、コーヤンから…俺に話しとく事ある?… ねぇか…?」 「本当にごちそうさまです! ありがとうございます!!! 俺からは、ないです。 最後じゃないですし、また何か有ればすぐ連絡します!」    「………了 つか、 めちゃくちゃ寒いから鼻水俺につけないでね〜…」 …コーヤン…頼むぞ… 聞こえるか聞こえないかの小さい声で言って走り出す。 冷たい風に、バイクの音を唸らせ走る。 法定速度お互いなく駆け抜けて、 トンネルを抜け、 電飾の町を横目に俺はコーヤンに言われたことを いくつか考えていた… …そういえば、 …ハヤト先輩にコーヤンはタイマン挑むんだったな… …… 今の俺が、どれぐらいか試してみるか… コーヤンを送った後、携帯の画面を開く… “ハヤト先輩ーーーーーー!!! あのぅ〜 時間もらえませんかぁ〜〜? 俺と今度、 お茶してくださーい…“ ”5分てむりくね笑“ … この瞬間から、次に向かう為の…… …… 賽は投げられた   ーーー END
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