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引っ越しすることに…。
私は恭子。大学の文学部に通う四年生だ。
来月で大学を無事卒業することになり、4月からは
ゼミの先生の口利きで出版社に就職が決まった。
「残業多いし、住む所は会社に近い所がいいぞ」
と、OB訪問の時、先輩に言われていたので
このアパートから会社の近くのマンションに
引っ越すことになった。
4年間の思い出もあるけど(男子を呼ぶ体験は
残念ながら出来ないままだったが)
一番名残惜しいのは…
「恭子、今夜はガレットぢゃ!」
テーブルの端に用意したお人形用ソファに
踏ん反りかえるこの太っちょおじさん…
いや、妖精ヨソプ。
もうすぐヨソプとお別れしなくてはならない…。
この前、ここを引っ越す話をヨソプにしたら、
「えっ…そうなんぢゃ…」とヨソプは
少し黙ってしまった。
「一緒に新しい家に行こうよ、ヨソプ」
「いいや、それは出来ないのぢゃ」
「どうして…?」
「わしら妖精はそれぞれの家に付いててな、
そこから離れることは出来ないのぢゃ」
「そんなあ…」
なんか座敷わらしみたいだ。
「座敷わらしぢゃないぞよ」
やば…心読まれた(苦笑)
「ねぇ…もうヨソプに会えないの?」
「そうぢゃのう…」
そう言ったきりヨソプは何かを考えるように
遠くを見つめていた。
それから、この話はなんとなくしないまま
日々を過ごしている。
ヨソプとのお別れが近づいてくるのを
感じてはいても、口にするとなんだか寂しくなるし、
ヨソプもなんとなく話して欲しくないみたい。
ヨソプに教えてもらって初めてプリンを作ってから
恭子は時々料理をするようになった。
(もちろん先生はヨソプだ)
「恭子は器用なんぢゃから、もっと料理すると
ええぞ。」
「そうかなあ、えへへ。料理上手になったら
彼氏もできるかも?」
「それは補償できんな…」
「ハッキリ言わないでよ、おじさん」
「おじさんぢゃないぞよ!」
「ごめん、ごめん」
なんか、おじさんと言われるのがすごくイヤみたい。
ガチおじさんなのに…。
「だ〜か〜ら〜」
「ごめん、ごめん!とりあえず買い物いこ!」
恭子は笑いながら、ぶんむくれのヨソプの腰を
持ち上げて胸ポケットに入れた。
(こうやって買い物に出かけても、
びっくりするくらい人はヨソプに気がつかないのだ)
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