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こちらは幸から少し遅れて、ただ前に進むだけだった。
ラブホに部屋を取り、二人で中に入った。
全て自動的に部屋を選択し入室できるようになっていたが、部屋は幸が選んだ。
何処のラブホも、ひと昔前からそんな感じだ。
室内は、特別ギラギラもしていないし、すこぶる地味というわけでもない。
ピンクのシーツが敷かれた大き目のベッドに、ゆったりくつろげるようにしてあるリビング。
少し妖しさが漂う、スケルトンな壁の向こうのバスルーム。
手慣れた感じで服を脱ぎ出した幸は、先にシャワーを浴びると言う。
幸は冷蔵庫から出してきたらしい缶コーヒーをこちらに渡してから、バスルームに向かった。
一緒に入りたいとは別に思わなかった。
金で買った時間。
それ以上でも以下でもない。
まるで恋い焦がれるように待ち伏せし、気にし続けた女との最初の一夜がこんな感じなのは、本当なら味気ないところだろうが、我々は所詮エイリアンだ。
まずはお互いのアイデンティティーが確認できれば、ビジネスでも何でも構わなかった。
缶コーヒーを飲んでいると、バスルームでシャワーを浴びた後、バスタオル一枚を巻き付けただけの肢体で幸が戻ってきた。
妖艶だった。
妖艶という言い方にぴったりの肢体を職業的に身に付けて、その身に纏っているような感じだったから、妖艶というしかなかった。
その妖艶に、特別な意味は無いと語っているような妖艶さだった。
全ては職業的な技能なのだろう。
シャワーをこちらが浴びるのは時間がもったいないからと告げると、幸は別に気にする風もなく、自分からベッドに横になった。
幸はまるで体操競技の態勢のように、ベッドに横たわった。
自分はそこで人並みの男のようなことをしただけだった。
幸の身体は無臭だった。
接吻し、舌を絡ませ、それほど大きくもない幸の乳房をまさぐり、舌を使って愛撫した。
自分の性的な悪い癖で幸の首を絞めて欲情した。
そのまま舌先を幸の下半身に伸ばした。
幸の愛液が少し溢れ、小さな声で反応していた。
幸も身体を起き上がらせ、こちらの下半身を刺激した。
それから自分の中に招き入れた。
快感が広がる。
また強く幸の首を絞めた。
幸も感じているのがわかる。
さらに悩ましい声を上げていく。
やがてこちらは果てて、ゴムの中に射精。
幸はそのことを確認してから、事務的に下半身をティッシュペーパーで拭き始めた。
こちらは外したゴムを近くのゴミ箱に放り込み、すでにバスルームへと向かおうとしている幸の背中を見送った。
幸がシャワーを浴びている間、リビングのソファーに座っていた。
それだけだった。
何か特別な話をすることもなかった。
自分にはわかっていたし、何も言うこともなかったし、何も言う必要もないのだと思った。
目を閉じた。
幸がシャワーを浴びたら帰ると言う声が聞こえたが、ただ"うん"と返事をしただけだった。
そのままソファーで目を閉じたまま、眠りについた。
ひどく疲れていた。
何故か眠くて仕方なかった。
そのまま意識がなくなった。
気がついたのは、外からドアをやたらとノックする音に目が覚めたからだった。
ソファーに座ったまま眠っていたことに気がついたが、この状態で眠ってしまったことには覚えがあった。
しばらくすると、数人のスーツ姿の男が部屋に入り込んできた。
男たちが目を止めているのは、部屋の入り口あたりで横たわっている一人の女性の姿であることに気がついた。
それは、幸だった。
帰ったんじゃなかったのか?
何故か、そこに横たわっている。
背中を異様に丸めて、うつぶせに倒れている。
傍に幸の大きなカートがあった。
男たちが、こちらに近づいてきた。
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