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とは言え、幸が殺されたのが、あのラブホテルの、自分と一緒に入った一室の中だとすると、個室の中での出来事ゆえ、証明は難しい。
他の人間の証言がない。
あのラブホが犯罪防止目的で、隠しカメラでも仕掛けていてくれればいいが、それほど防犯意識の高いホテルなら、幸のような売りをやってる女が、簡単に売春商売に利用できないだろうし、そもそも警察がとっくに、その映像を確認して、自分がシロであることを認めているだろう。
隠し撮りがプライバシー侵害の違法になると思って、ホテル側が隠してるケースもあるだろうが、警察にその辺を追及されて隠しておくメリットなんかホテル側にはない。
どうやら、自分の潔白を証明するのは、少し難しいことのようだ。
幸は窒息死だった。
殺害方法は絞殺。
だから突然の呼吸困難の可能性があり、病死のように見えた殺害現場だったことを思い出す…。
そんな陰惨な場所で、たった今、人を殺した人間が、呑気に居眠りなんかしてるわけがないと何度も訴えたが、殺人現場で平気で物を食べたり、一切罪悪感を感じずにいる人格障害のサイコパス殺人者もいるので、お前がそうじゃない保証などどこにもない、と言われた。
こっちはサイコパスどころかエイリアンだから、そういうツッコミ方をされると、それ以上詮索されることを警戒してしまう。
サイコパスどころかエイリアンなのだと、生物学的にでも証明されたりしたら、凄惨な殺人も、殺害現場での居眠りも必然性のないものではないと、さらに思われてしまいかねないからだ。
エイリアンなどという怪物なら、何でもしでかすだろうと、人間は恐怖心からそう認識してしまうだろう。
だからそれ以上、理不尽を声高に訴え続けることができなかった。
だが取調中、ふとあることを思い出していた。
そば屋のテレビのニュースで報じていた、ある殺人事件についてだ。
山中で何カ所も刺された死体が見つかったニュースだったが、それとこの幸が殺された事件は関係があるんじゃないのか?
いや、それだけじゃない。
あのニュースを聞いた時、真っ先に浮かんだ人物がいる。
あの廃屋のビルに住んでいた、自分を刺し殺そうとナイフを振り回してきた女だ。
瞳のことだ。
あの女はサイコパスに違いないだろう。
そんな、あの女の"本性"に会いたくて.探し回っていたところもあったが、それを自分は当初エイリアン的人格と誤解していた。
エイリアンたる自分たちも、必要とあれば冷酷な殺しなど、心を動かさずに行えるからである。
でもあの女はエイリアンではなかった。
明らかに人間の精神疾患としてのサイコパス人格障害者だった。
同じような妄想を見ていたり、それにすがっているところは似ていたが、やはり違うのだ。
あの女の全体に漂う、"人間としての悲しさ"がそれを証明していた。
彼女の精神が、それまでの人生の中で破壊されていったプロセスが"見えた"のだ。
エイリアンにそんなものはない。
瞳があんな風になってしまったのは、人生の偶然と宿命ゆえだと思った。
それらが絡み合って、彼女の精神は完全に崩壊してしまったのだ。
その悲しいプロセスが"見えた"が、エイリアンにはそんなものはないのだ。
しかしながら、この幸を殺した事件になら、関わっていてもおかしくない気がした。
瞳は、自分を殺し損ねて、どこか血に飢えていたはずだ。
だからきっと、あの山中の殺人も彼女の仕業だと思う。
そして、幸も無差別に瞳に狙われ、首を絞められて殺されたのではないか?
そんな気がした。
ただの直観だが。
山中のメッタ刺し死体の件と、幸の事件を一緒に調べるべきだと刑事に進言したかったが、警察に瞳のことを話すのは、何故か憚られた。
妙な同類意識が、ご同類でもないのに働いたのか、その話を刑事にする気になれなかったのだ。
それに何の確証もない話だ。
もっとも、話したところで、気の狂った罪を逃れるための妄想だとして一笑に付されて終わりだろう。
だいたい、瞳と関係のある女には思えない上、無差別殺人にしたところで、ラブホテルで部屋から出ようとしていた売春婦を、わざわざ殺しに来たとは思えない。
刺殺と絞殺では犯行の手口も違う。
突発的な殺人であったとしても不自然だ。
だから、またまた自分の直感の宛てにならなさに失望する気持ちになった。
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