3 エイリアン探し

2/3
前へ
/22ページ
次へ
ああ、いけない、アルカリ性粘液の量が減ってきた。 エイリアンの血液は極度の強酸だ。 体液も強酸であるため、アルカリ性の粘液が大量に必要で、内部分泌したものでは足りないので、アルカリのスペシャルドリンクにて補給を繰り返さないと、強酸で身体が溶けたり、内臓をやられてしまう。 口から絶えずアルカリ性の粘液を出しているので、通常はそれで何とか中和されているのだが、人間で言うところの喉が乾いてくるのと似た状態になると、強酸の濃度を中和する意味合いもあって、スペシャルドリンクを補給しなくてはならぬ。 人間は、日々更新し、心も身体も何もかも変態している生物だ。 日々劣化し、死に向かうだけでなく、バージョンアップと変態を繰り返している。 あの、この世のものとも思えないほど美しい以外何もない麗も、変態を繰り返し、別人になっていたが、またさらに別人の別人になっていくのだ、これからもずっと。 それが人間という生物だ。 こちらにはそういうシステムも回路もない。 ただ日々を繰り返し続けるだけの話だ。 しばらくして、またあの駅に来た。 ただ来ただけだ。 瞳はキヨスクにおらず、この間、麗と話していた地味な女が無愛想な無表情で店頭に立っていた。 前に見かけた安っぽい指輪をしていた。 女のことはどうでもよかったが、キヨスクに出向いて、またミネラルウォーターを購入。 しばらく駅のベンチで本を読んでいたが、キオスクに瞳は来なかった。 夕闇に空が包まれる頃、駅を出た。 誰もいない暗い路地を一人で歩く。 仕事の肉体疲労は激しく残っていたが、そんな事は気にせず歩いた。 瞳のところに向かっているのか? まさか。 第一、あの女が今何処にいるのか知りはしないんだから。 だが、あの女の方に向かって歩いてるような気持ちになった。 何処だか、わからない場所に向かって、闇雲に歩いた。 すでに暗闇に包まれた路地では、等間隔にある街灯の明かりが目立っていたが、それをすり抜けるように歩き続けた。 そのまま暗闇に飲み込まれた。 数時間歩いて、一つのビルの前まで来た。 どうやら無人のビルだ。 何故かそこに、あの女=瞳が住んでいるような気がした。 エイリアンの勘(センサー)だ。 ビルは厳重に出入り口が塞がれていたが、難なくその遮断物を取り外して、中に入った。 中は朽ち果てた廃屋であった。 所々ひび割れ、置かれている年代物の家具などが乱雑に放り出されていた。 完全に死んだ部屋が連なっているだけ。 暗闇の中を歩きまわる。 誰の気配も感じない。 だが、あの女なら気配など消すことができるだろう。 無音の闇の中をゆっくり歩きまわる。 しばらくすると、会議室の札が貼られたドアが見えてきた。 ゆっくりとドアノブを回す。 中に女がいた。 放り投げられたように保持されているソファーの上に、その美しい肢体を投げ出し預けている女の身体のラインが、暗闇に差し込んだ外部のネオンの灯に少し照らされて見えた。 彫りの深い西洋人形のような顔のラインも。 瞳は自分が入ってきても、まるで動じない様子で、ソファーの上に寝そべっていた。 しばらくすると、大きなアーモンド型の目をこちらに向けて、静かに自分を見ていた。 「あなたの部屋?」 と聞いた。 「え?」 「あなたの家ですか、ここ?」 「ええ、まぁ」 「廃屋じゃないの?不法侵入とかにならないんですか?」 「それならあなたもそうじゃない」 「まぁ」 「座れば」 「え?」 「ここ」 瞳はソファーの自分が座っている隣のスペースをポンポンと叩いて、そう言った。 「いいですよ」 「人んち来て、ずっと突っ立ってるつもり?座ってください」 他に椅子らしきものは見当たらない。 仕方なく女の方に近づいて、ソファーの隣のスペースに腰掛けることにした。 「あなた駅に来た人でしょ」 「駅ぐらい行くよ」 「違う。この間キヨスクで私から物買った人ってこと。私のこと知らないの?」 「覚えてないなぁ。急いでたんで」 そう惚けた。 「ふーん」 瞳はソファーの真横にあった古いランプスタンドの灯を点けた。 一瞬にして部屋が少し明るくなった。 女のことも鮮明に見えた。 美しい顔立ち。 瞳はランジェリー姿だった。 スタイルはかなりいい。 胸元が大きく盛り上がり、脚は細く、とても長い。 思った通りの長い脚だ。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加