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ああ、いけない、アルカリ性粘液の量が減ってきた。
エイリアンの血液は極度の強酸だ。
体液も強酸であるため、アルカリ性の粘液が大量に必要で、内部分泌したものでは足りないので、アルカリのスペシャルドリンクにて補給を繰り返さないと、強酸で身体が溶けたり、内臓をやられてしまう。
口から絶えずアルカリ性の粘液を出しているので、通常はそれで何とか中和されているのだが、人間で言うところの喉が乾いてくるのと似た状態になると、強酸の濃度を中和する意味合いもあって、スペシャルドリンクを補給しなくてはならぬ。
人間は、日々更新し、心も身体も何もかも変態している生物だ。
日々劣化し、死に向かうだけでなく、バージョンアップと変態を繰り返している。
あの、この世のものとも思えないほど美しい以外何もない麗も、変態を繰り返し、別人になっていたが、またさらに別人の別人になっていくのだ、これからもずっと。
それが人間という生物だ。
こちらにはそういうシステムも回路もない。
ただ日々を繰り返し続けるだけの話だ。
しばらくして、またあの駅に来た。
ただ来ただけだ。
瞳はキヨスクにおらず、この間、麗と話していた地味な女が無愛想な無表情で店頭に立っていた。
前に見かけた安っぽい指輪をしていた。
女のことはどうでもよかったが、キヨスクに出向いて、またミネラルウォーターを購入。
しばらく駅のベンチで本を読んでいたが、キオスクに瞳は来なかった。
夕闇に空が包まれる頃、駅を出た。
誰もいない暗い路地を一人で歩く。
仕事の肉体疲労は激しく残っていたが、そんな事は気にせず歩いた。
瞳のところに向かっているのか?
まさか。
第一、あの女が今何処にいるのか知りはしないんだから。
だが、あの女の方に向かって歩いてるような気持ちになった。
何処だか、わからない場所に向かって、闇雲に歩いた。
すでに暗闇に包まれた路地では、等間隔にある街灯の明かりが目立っていたが、それをすり抜けるように歩き続けた。
そのまま暗闇に飲み込まれた。
数時間歩いて、一つのビルの前まで来た。
どうやら無人のビルだ。
何故かそこに、あの女=瞳が住んでいるような気がした。
エイリアンの勘(センサー)だ。
ビルは厳重に出入り口が塞がれていたが、難なくその遮断物を取り外して、中に入った。
中は朽ち果てた廃屋であった。
所々ひび割れ、置かれている年代物の家具などが乱雑に放り出されていた。
完全に死んだ部屋が連なっているだけ。
暗闇の中を歩きまわる。
誰の気配も感じない。
だが、あの女なら気配など消すことができるだろう。
無音の闇の中をゆっくり歩きまわる。
しばらくすると、会議室の札が貼られたドアが見えてきた。
ゆっくりとドアノブを回す。
中に女がいた。
放り投げられたように保持されているソファーの上に、その美しい肢体を投げ出し預けている女の身体のラインが、暗闇に差し込んだ外部のネオンの灯に少し照らされて見えた。
彫りの深い西洋人形のような顔のラインも。
瞳は自分が入ってきても、まるで動じない様子で、ソファーの上に寝そべっていた。
しばらくすると、大きなアーモンド型の目をこちらに向けて、静かに自分を見ていた。
「あなたの部屋?」
と聞いた。
「え?」
「あなたの家ですか、ここ?」
「ええ、まぁ」
「廃屋じゃないの?不法侵入とかにならないんですか?」
「それならあなたもそうじゃない」
「まぁ」
「座れば」
「え?」
「ここ」
瞳はソファーの自分が座っている隣のスペースをポンポンと叩いて、そう言った。
「いいですよ」
「人んち来て、ずっと突っ立ってるつもり?座ってください」
他に椅子らしきものは見当たらない。
仕方なく女の方に近づいて、ソファーの隣のスペースに腰掛けることにした。
「あなた駅に来た人でしょ」
「駅ぐらい行くよ」
「違う。この間キヨスクで私から物買った人ってこと。私のこと知らないの?」
「覚えてないなぁ。急いでたんで」
そう惚けた。
「ふーん」
瞳はソファーの真横にあった古いランプスタンドの灯を点けた。
一瞬にして部屋が少し明るくなった。
女のことも鮮明に見えた。
美しい顔立ち。
瞳はランジェリー姿だった。
スタイルはかなりいい。
胸元が大きく盛り上がり、脚は細く、とても長い。
思った通りの長い脚だ。
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