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「そろそろ行ぐかぁ」
うーんとひとつ伸びをした後で、クラスメイトの羽田が黒いリュックを背負った。
解放感たっぷりのあくびを見て、本当にお気楽なヤツだな、とほんのり呆れてしまう。
いつだかお前が部活で大けがしたときも、大騒ぎするのは俺ばっかだったよな。心配したら「お前、俺のこと好きなのか」とか抜かしやがる。それで数日間口を聞かなくなったけど、今じゃそれもいい思い出だ。
華やかな装飾にあふれた教室も、もう大分静かになった。窓の外の空には、少しずつ、黒い絵の具が足されてゆく。
俺は、数十分後に描き足される光の煌めきを思った。
「斎藤も、外出るべ」
「おう」
羽田に背中を押されて、俺は一歩踏み出す。
今日は、高校生活最後の文化祭ーーその、前日だ。
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