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「すっげー、小惑星が落ちてきたみたいだな」
「しね」
「……そういや俺、中3の時も家の庭からこの花火見てたわ」
「マジな?」
「ぁん。受験生だったからさ、モチベーション上げるのにすごい効果的でしたね。来年はこの花火を、絶対にこの高校の校庭で見るんだって」
「そっかぁ」
俺も、あの頃は本当によく頑張ってたと思う。
憧れの学校。そこへ川のある道や花咲く小坂を風をきって通う日々を想像しながら。
あれから、随分時は経った。それはそれは、幸せな時間だった。
絶対に失いたくない。この世界を、この日々を。
だが、そもそも来夏を迎える前に、車にひかれてぺしゃんこになることだってあり得るわけだ。
超進行性の不治の病にかかるかもしれないし、刃物を持った通り魔とすれ違うかもしれないし、足を滑らせて海に落っこちるかもしれない。
あるいは羽田が言うように、実は偉い人の早とちりというドッキリ企画に終わる可能性もある。
明日という1日が、未来という光が保証された世界など、存在しない。
それでも俺たちは、太陽が落ちれば12時間後にまた昇ってくるという幻想を疑わず、またそれを当たり前だと思って生きてきた。
この花火。この弾ける光の粒が、来年も夜空を彩ることを、疑ったことはなかったのにーー。
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