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第2話
これは難題でした……
師匠の私が言うのも何ですが、はっきり言ってシロップの菓子作りの腕は素人以下です。
この一年間色々教えてはいるのですが、いまだにマスターしたレシピはありません。
生来のセンスの無さに、驚くほどの不器用さが障害となっているのです。
もう少し時間があれば、簡単なレシピを叩き込むところなのですが……
明日では、とても間に合いません。
何か手を考えなくては……
「シロップ、お父さんの好物は何だい?」
調理室で、顔を突き合わせながら質問しました。
「甘いものなら何でも好きです」
不安そうな表情で、シロップが答えます。
「甘いものか……スイーツで比較的簡単なのはクリームかな。ケーキやクッキーは、材料の練り加減や焼き加減が難しいから……」
「クリーム……アイスクリームですか?」
「そ。アイスクリームの基本レシピは、牛乳・砂糖・卵黄・生クリームを混ぜ合わせ冷やせばできる。配分さえ間違えなければ、いたって簡単だ。これなら君でもいけるんじゃないかな……シンプル・イズ・ベストだ」
「シングル……ベッド?私はマスターとなら、どんなベッドでもウェルカムです!」
「いや、やめなさい……今はツッコむ時間も惜しいから」
うるんだ目で見つめるシロップを無視し、私は調理器具に手を伸ばしました。
「時間がない。さあ、特訓を始めるぞ!」
*********
それから何時間か費やして作り方を教えたのですが、これが全く上手くいきません。
各材料の配分を何度やっても間違えてしまい、あげくには砂糖と塩まで間違う始末でした。
記憶力の優秀な多肢族ですので頭には入っているのですが、いざ本番となると焦ってごちゃ混ぜになってしまうのです。
彼女にとっては、このレシピでもまだ複雑なのでしょうか……
「マスター、すみません……」
精力を使い果たし倒れている私に、シロップが謝ります。
目には、いっぱい涙が溜まってました。
「やはりお父様の言った通り、私には無理だったようです……」
「え!?」
いつもと違う口調に、私は飛び起きました。
「私、決めました……素直に国に戻ります」
「だ、ダメだよっ、そんなの!」
気付くと、私は叫びながら彼女の手を掴んでいました。
「……マスター!?」
シロップの驚いた顔を見て、私は慌てて手を離しました。
「いや、その……なんだ……まだ諦めるのは早いんじゃないかな。その……国に戻っても、君の好きな相手と結婚できるとは限らないし……とんでもないブサイクかもしれないし……そうなると、できた子どもが不憫だし……あれ、何言ってんだ僕は??」
あたふたしながら言い訳する私を見て、シロップがぷっと吹き出しました。
「ありがとう。マスター……」
その笑顔に、私の口元も自然と緩みます。
それから二人で、ひとしきり笑いました。
「でも、一体どうすればいいのでしょう……」
心配顔に戻ったシロップの前で、私は懐から小さな手帳を取り出しました。
「とにかく何かヒントがないか、こいつとにらめっこしてみるよ」
それは、我が祖父・千夜狐民斗の遺した『ミンくんのグルメガイド』でした。
生前世界をまわり、ありとあらゆる食べ物の作り方を記した究極のレシピノート──
困った時に頼りになる、まさに『伝家の宝刀』なのです。
「よしっ、今夜は徹夜で頑張るぞ!シロップ」
私が声をかけると、シロップの目が嬉しそうに輝きました。
「そんな……今夜は寝かせないぜ、なんて……ウフっ♡」
「いや、なんか違うし!?ウフってなんだ、ウフって……」
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