3人が本棚に入れています
本棚に追加
❀
彼女が旅立ったのは、春の終わり頃だと風の噂で聞いた。体調が悪い日さえもここに訪れては物語を聞かせてくれた。
その時が、彼女との最後になるなんて夢にも思わなかったけど。
“ごめんね。最近物忘れもひどくてねえ。いつの間にかこんなにもしわくちゃになっちゃったわ。……わたしは老いて去っていくけれど、また会いましょう。
――今度はきっと……”
僕は彼女がその先を紡がなくても、何を伝えたかったのか、言葉にしなくても知っている。
忘れても。
泡沫に沈んでも想い浮かぶ面影がある。
春が廻る度、君を想いだす。
“死神さん”
やさしい音がする。
僕は勿忘草図書館の死神さん。ずっとここで、君を待っている。
最初のコメントを投稿しよう!