春、瞳から花がふる

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春、瞳から花がふる

月日は流れてゆく。足早に。 少女と共にあった奇跡のように美しい季節(とき)――それは過ぎ去っても決して色褪せることのない物語。 少女が成長してからもそれは続いた。高校入学、勿忘草図書館に通ったことが夢に繋がり、絵本作家になったと嬉しそうに報告してくれたこと、それから大切な人と巡り会い――結婚し、子どもが生まれたと見せにも来てくれた。 ――いつの間にか眠っていたらしい。別に睡眠など必要ない(からだ)なのだが、すっかり現に馴染んでしまったようだ。 「……? 頬が濡れてる……」 “哀しいってね、花が散っていくような、気持ちなの。瞳からハラハラと花が降ることもあるのよ――あとね、嬉しいときも花は降るんだよ” 少女の言葉が想い浮かぶ。あの、太陽のように眩しい笑顔と共に。 「――哀しい花じゃない。僕の傍に君はもういないけど……君が残していってくれた死神の物語は、今じゃもう勿忘草図書館の顔だよ。子どもたちが真っ先に選ぶんだ」 ハラハラ。 ハラハラ。 優しい花が降る。 “死神さんはわたしがはじめて読んだ物語。いつか、わたしも描こうと想ってた物語。だから、死神さんって呼ぶの。 あなたはとても優しい優しい死神さん。勿忘草図書館を、よろしくね”
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