真実

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「秀治」  温度のない声で名前を呼ばれる。すぐ近くの温もりに自然と体が近づいていく。薄目を開けて声の主を確認した。分厚い胸筋がTシャツの上からはっきりと見えて目線を逸らす。 「俺は仕事に行く。途中で下ろすから準備しろ」  シャワーを浴びにいった降谷を見送ってから借りていた寝巻きを脱ぐ。どれもワンサイズ以上大きくてぶかぶかだった。ようやく自分のサイズの服に身を包むことができて胸を撫で下ろす。やはり着なれているものがいい。  秀治はベッドの上であぐらをかきながら昨夜のことを思い出す。降谷の前で自慰を強要されたが嫌な気はしなかった。むしろもっと触ってほしいなどという自分の醜い願望がふつふつと込み上げてきてそんな自分に驚きもした。  ほんとうに俺に惚れてるんだな。まだ事実として受け入れることができない。あの降谷が俺に惚れている。それが嬉しくて頬をつねる。ちゃんと痛みがある。これからどうなるんだろう。惚れているとは言われたが、付き合えとは言われていない。この関係は一体なんなのだろう。俺から言わなければまずいだろうか。自問自答を繰り返していると、眉を下げた降谷がドアの前にやってきた。早くしろと目で訴えられ急いでベッドから下りた。  車に乗り込むとまた無音の時間が始まる。何かを話そうと思っても何を話したらいいのかわからなくて黙りこくる。秀治はぎゅっと両手を握りしめた。ちゃんと俺の気持ちを伝えないと……。 「れ、蓮。話がある」  赤信号で停止した瞬間に勢いよく言った。降谷は目線をこちらに投げかけ何だと言わんばかりに目を細める。朝は弱いのかもしれない。少し不機嫌そうな顔を伺いながら、ゆっくりと話し出す。 「あの、さ。俺たちどういう関係になるのかなって思って……」  無言の時間に体が固まる。何も言ってくれないんだ。少し不貞腐れて指をいじっていると、ふっと軽い笑い声が耳に入ってきた。急に機嫌が良くなったのか降谷が笑みを見せる。その顔があまりにも綺麗で、眩しくて秀治は目を瞬かせた。しかし一瞬でいつもの表情に戻ってしまう。
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