真実

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「仕事遅れるだろ」  降谷を諦めさせるためにそんなことを言ってみるが、ぎろりと睨まれてしまう。 「おまえに心配されるほど俺は馬鹿じゃない。まだ余裕はある」  そう言うと降谷は秀治の口を空振りして着ていたシャツの隙間に頭を埋める。 「ん……」  ちくっとした痛みが首筋に走る。何度もそれを繰り返され秀治は身をよじろうとするが、降谷の手が体を押さえつけてくるので身動きが取れない。降谷の吐息が首にかかってくすぐったかった。ようやく気が済んだというように降谷が顔を上げる。瞳がぎらぎらと光っているように見えて秀治は身をすくめた。飢えた獣のようだと思いながら急いでシートベルトを外す。 「誰かに見られたらどうするんだよっ」 「別に構わない」 「おまえはそうでも俺は困るんだよ」  それが何だという目で降谷はじっと見つめてくる。仕事に向かう降谷は高そうなスーツをモデルのように着こなしている。オールバックにした髪型も新鮮で見応えがあった。それに俺はワックスで固められたきちっとした髪型の降谷の方が好みだった。絶対本人には言わないけど。 「また連絡する」 「うん……」  別れる瞬間、ほんの少しだけ寂しさを覚えて車を見送ることにした。またいつ会えるかわからないから降谷の声も姿も記憶に留めておきたい。降谷の運転する車は滑るように発進していくと角で右折して大通りへ向かっていった。朝の光に包まれながら秀治は自分の部屋に戻った。
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