真実

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「だから今度は僕が奪う番なんだよ。例えば、君とかね」  不意に翠の指が秀治の無防備な首筋を撫でた。ひゅっと喉の奥が冷たくなる。とても冷たい指だと思いながら秀治は後ろに退がる。しかし、それを許すまいとするように蛇のような指が秀治の首に絡み付いた。 「蓮のこと諦めないなら僕が君をめちゃくちゃにしちゃうよ。それでもいいなら蓮の隣にいなよ」  なにを言ってるんだこいつ。秀治は目を見開いて目の前の男を見つめる。気味の悪い笑顔で秀治をじっと見据えている。それが脅しなのだと気付くのに数秒もかからなかった。冗談を言っている素振りはない。こいつ本気だ。  ごくりと生唾を飲み込み答えを模索する。せっかく繋がった降谷との糸を断ち切りたくはない。ようやく見つけたんだ。休まる場所を。それをこんなやつに奪われてたまるか。 「嫌です。俺は降谷のことが大切だから、絶対に離れません」  軽い舌打ちと共に頬をぴしゃりと叩かれる。容赦のない手振りに頬がじんじんと熱くなる。翠は無表情で秀治を見下ろしていた。その瞳は真っ暗で光の入る余地もない。自らの身に危険が迫っているのを察して急いで車外に出ようとする。しかし、甘かった。翠は秀治の首根っこを軽々と掴むと、無理矢理横抱きにしてきた。いつのまにか運転手が戻ってきて車を発進させる。 「何すんだよ」 「君に蓮の本当の姿を教えてあげるんだよ」
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