真実

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 暴れる秀治を押さえている腕は細いくせに頑丈でびくともしない。秀治を乗せた車は高速道路を通過して別の県に向かっていく。長野県と書かれた通行札を見つけたときには、秀治は全力で暴れていたため力がなくなっていた。若葉の生い茂る林道を進み、車は一軒のログハウスの前で止まる。運転手が秀治を担いで家の中に放り投げた。どんっと鈍い衝撃とともに背中を床に打ち付ける。次いで翠がゆったりとした足取りで中に入ってくる。ログハウスの電気を付けると、運転手に一声かけて鍵を閉めた。車が走り去っていく音を聞きながら秀治はじりじりと後ろに退がる。 「さて、何から話そうかな」  木でできた品のいいスツールにどかっと腰掛けて秀治のことを見下ろす翠は薄い唇を上げている。この状況を楽しんでいるらしい。 「ここどこだよ」  今にも噛みつきそうな秀治を見ても翠は焦る素振りなど一切見せない。 「軽井沢の僕の別荘だよ。素敵なところだろう?」  優しい木の温もりを感じる木製の家具に囲まれた二階建てのログハウスはあたたかな光で満ち溢れている。しかし、秀治の周りだけが異様な空気に包まれていた。この男のせいだった。体内に入ってはいけない毒のようなものを持つ翠の雰囲気にのまれそうになる。 「秀治くんはさ、蓮のことどのくらい知ってるのかな」  膝を組んで愉快げにこちらを見てくる翠を睨みながら精一杯落ち着いた声で答える。 「アメリカの兵士だったってこととか、貿易会社で働いてることとか」  くっくっと堪えきれないというように翠が笑い始める。 「やっぱりそうかぁ。秀治くんは騙されてるよ」  どくんと心臓が波打つ音を秀治は聞いた。
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