真実

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 心配してくれてるんだ。それが嬉しくて秀治は笑ったつもりだった。しかし引き攣っていたらしく降谷は鋭い目つきになる。 「翠がまた何かしたんだな」 「……また蓮のことを言われた」  降谷の部屋につくとリビングのソファで隣り合って座り、ことの詳細を伝えることになった。その声が震えているのに降谷は気づいているだろうか。 「手荒なことはされなかったか」 「うん……ただ話を聞かされただけだ」  青い瞳がじっとこちらを見つめてくる。その目があまりにも優しい色をしているから秀治はさらに胸が痛む。これから聞くことはきっと降谷も聞かれたくないことに違いないのに。確認しないわけにはいかなかった。 「アメリカの兵士だったとき、人をたくさん殺したって……それに襲われたって聞いた」  降谷の反応が怖くて目を閉じる。息を詰めたような音が耳に入ってきて秀治は手のひらを握りしめた。 「……おまえはその話を信じたのか」  温度のない声が秀治の耳に入ってくる。ぶんぶんと勢いよく首を振った。 「信じるわけない……だから本当のことを教えてほしい。話すのが嫌だったら言わなくていい」  その言葉に嘘はない。秀治はゆっくりと瞳を開く。目の前には初めて見る降谷の表情があった。目元を緩ませ穏やかな表情をしている。しかしその目がどこか遠いところを眺めているようで胸が締め付けられる。 「翠の言ったことは本当だ。俺は兵士としてたくさんの人間を葬ってきた。どれも賞賛されるものじゃない。今でも夢に見るくらいだ。過去の亡霊が俺を離してくれない」  ソファに深く沈み込むようにして降谷が話し出す。それを秀治は静かに聞いていた。
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