真実

12/12
242人が本棚に入れています
本棚に追加
/237ページ
「襲われたのも本当だ。そのときの傷がまだ体に残っている。それを見るたびに思い出す。戦地での自分の愚かさを」  どこか自分に自問するように降谷が言葉を紡ぐ。秀治は見ていられなくなって降谷の両手を握った。もうどこへも行かないでくれと懇願するように強く握りしめる。 「もういいよ。ごめん、こんな話聞いて」  秀治が謝罪するとその手を包み込むように降谷がこちらの手を握りしめる。その手が大きくてあたたかくて、秀治は体の力が抜けるのがわかった。 「おまえに話すのなら問題ない。おまえも俺に話したいことがあったらなんでも言え」  どくんと胸が跳ねる。ずっと誰にも言えなかったことを震える唇で放った。 「俺、ガキの頃から母親に虐待されてたんだ……それで、こんなふうに強がりで負け犬みたいな人間になった」  一呼吸置いてから降谷の顔を見つめる。 「でも、変われたよ。蓮に出会ってから少しずつだけど、本当の自分に気づけた。だから、感謝してる」  やっと言えた。秀治はほっと頬を緩ませる。すると降谷がそんな秀治の髪を撫でた。 「おまえが変わろうとしたからだ。俺は何もしていない」  その手に縋り付くようにして頭を傾けると、優しく肩で抱いてくれる。この場所が一番落ち着く。降谷の隣にいるだけで体と心が解されていく。 「おまえに出会ってなかったら俺はずっと過去に囚われていた。だから感謝するのは俺のほうだ」  そう言って無骨な手が秀治の背中に回る。こうやって抱きしめられていると自分が溶けてしまいそうな感覚に陥る。降谷の熱と混ざり合って秀治の体の緊張が解れていく。
/237ページ

最初のコメントを投稿しよう!