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なんとも間抜けな蚊の鳴くような声が発せられるのと同時に、ゆっくりと顔を上げた。
彼のその立ち姿からは、一種侵しがたい威厳のようなものが感じられた。
ジーンズにTシャツとチェックのシャツ、その上に秋物のカーキー色の上着を羽織っていた。
何より私に強く印象づけていたのは、端正な顔立ちの彼によく似合う黒フレームのシンプルな眼鏡の奥にある怜悧な目であった。
私の価値観から言えば彼は「格好よく」見えた。
間抜けな声を上げたきり何も返さず不躾な視線を注いでいた私は、ひどく狼狽えて言葉が出ず、ただ胸の前で意味もなく両手をひらひらさせた。
「あ…えっと、そうですが…。もしかして、将生さんですか?」
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