6人が本棚に入れています
本棚に追加
想い
彼は、俯いていたその顔を上げた。照れくさそうに微笑みながらゆっくりと頷いた。
「日和…」
彼の唇が私の名を紡ぐ。
その細かな仕草のひとつひとつが、あまりに懐かしく、愛おしく、私は泣き出しそうになった。
私はおずおずと彼に歩み寄り、そっと手を伸ばし、その存在を確かめようとした。彼も手を伸ばし私を抱きしめる。
「逢いたかったよ」
そう耳元で囁かれた。少し掠れたハスキーボイスのあの懐かしい声だった。
私はその声の懐かしさにますます泣き出しそうになった。
私は一度彼との別離を経験している。再び巡り会えた彼とも、もし、もしやがてまた別離の日が来るとしたら、この再会には初めから別れが…悲しみが用意されていたことになる。
最初のコメントを投稿しよう!