告白

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 「なんだか、泣きたくなるんです」  誰か好きな人を想うとき、必ずその想いには別離の予感が寄り添っていることを。私はすでにそれを何度も学んでいる。  「…そんなことはない。でも、もしそうだとしても」  彼は言った。  「今、ここに日和が居てくれることは、やっぱり幸せなことだよ。 だから、今を生きよう?この時間を大切にしようよ」 私は、うんと答えた。  大丈夫、もうあの時みたいなことはない…。 大丈夫と何度も口の中で呟きながら。    それから3~4年の遠距離恋愛をした。お互いに行ったり来たり。はたまた中間であったり。 帰る別れ際、いつも私が泣いていた(いわゆるロスというやつなのだろうか?)。 毎回泣かずにその場を去れば完璧であった。 しかし、私は彼を求めていた。彼と一緒にいたかった。 彼は少し困ったような顔をしながら「また会えるから」といつも宥めてくれた。 こんな子供のような態度をとっても、それでも彼の気持ちが変わらずにいてくれることを願っていた。 私は矛盾した存在だった。自家撞着(じかどうちゃく)的な思いに、人格が二つに引き裂かれていた。将生さんが好きだから、だから彼を遠ざけようとし、だから彼を求めようとしていた。 「今度はいつ会えますか?」 きっと不安を感じていたのだろう。私は初めて次の約束を彼に訊ねた。 「分からない」 彼は答えた。 「忙しいんだ、最近。でも、日和が逢いたいって時は時間を作るようにするよ」 「手紙やLINE書きますね」 精一杯の勇気を出して、私が言った。 手紙はLINEは私たちの世界の中心にあった。これまでもが拒絶されれば、二人の間にある親和力はほどけて、私は寄る辺を失ってしまう。 けれど、きっと、私は言うべきではなかったんだろう。彼の隣に私は相応しくない。彼の隣には私ではない誰か、やさしくて、強くて、健康な誰かこそが似つかわしい。 けれど、 「待ってるよ」 彼は穏やかに言った。 「待ってる」 視線が重なると微笑みを彼は返した。 「大丈夫」 彼は言った。 「進もう。もう離さないから」
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