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私の部屋の隣にはゾンビがいる。
嘘でもなく、まして夢でもなく、本当にいるのだ。
ちらりとのぞけば、ゾンビは姉のベッドに座り、スチームパンク系のファッション誌をハムハムと食していた。
どうやら奴は雑食らしい。
興味本位で「美味しいですか?」と聞いてみたら、
「服ヲ着タオ前ガタベタイ」
という、大変ありがたくない口説き文句が返ってきた。
いやーんな効果音で誤魔化されそうな出来事ではない事は確かだ。
面と向かって、スプラッタ系の返答をするのは、ぜひとも止めて頂きたい。
さて、何がどうなって、私の部屋の隣にゾンビがいるなんて事態が起こっているのか。
話せば長くなるのだけど、簡単にまとめると「姉のせい」である。
私の姉は、異世界に恋焦がれていた。
口を開けば異世界に行きたい、異世界で活躍したい、イケメンとキャッキャウフフの関係を築きたい。
そんな事を真顔で言う人間だった。
ただの冗談ならば良かったが、残念ながら姉は「本当に」そう思っていたのだ。
その目的のために、姉は魔法関係の資料を集めるようになった。
本だけではなく、道具まで。
真夜中に姉の部屋の前を通ると、
「あーぶだーくしょーん!」
などと唱えているのを見た時は、本気で心配になった。
しかも、たぶんちょっと間違っている気もした。
両親は必死に姉を止めようとしたが、姉は全く聞く耳を持たなかった。
私も協力はしたけれど、右に同じだ。
それでどうなったかと言うと、結果的に、姉の魔法は正しい意味で成功した。
異世界転移、という奴だ。
ただ問題は、姉が成功させた魔法は、異世界と現実世界の同じ質量のものを交換という形で転移させる、というものだったのだ。
その結果、姉の部屋にゾンビがやって来た。
両親は卒倒して病院に運ばれた。恐らく、姉がゾンビになったと思ったのだろう。
そして一人家に残った私が、このゾンビを見張っているというわけだ。
幸いこのゾンビは多少なりとも理性は持っているようで、人を襲おうという気配がない。
だが試しに声を掛ければ、
「服ヲ着タオ前ガタベタイ」
になるので、とても安心できるようなものではない。
仕方なく、私はゾンビの目を盗みつつ、姉の部屋から魔法関係の資料を移動させた。
姉と同じ魔法を使って、このゾンビをリリースし、姉をキャッチするためだ。
膨大な資料と、そこに書きこまれた細かいメモ書きに姉の執念を感じながら、私は広げた紙に魔法陣を描いて行く。
まずは簡単に練習をしようと、紙の上に高級なステーキ肉を置いた。あわよくば何か良いもの届くといいなという打算からである。
そして準備を終えたら、呪文を唱えるのだ。
「あーぶだーくしょーん!」
まさかこれがガチで呪文だとは思わなかった。
魔法陣はカッ! と光を放つ。
あまりの眩さに、私は思わず目を瞑る。
そうして光が収まると、私は恐る恐る目を開けた。
そこにはミイラ男がいた。
「こんにちは! ボク、サリー!」
マミーじゃねぇか!
隣の部屋のゾンビを何とかしなければいけないのに、現れたのはミイラ男だった。
目眩がした。
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