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 「あーなんかいいゲームねーかなー…」  パソコンをいじりながら、男は呟く。その男、田村慎之介は、MOREliveで約4万人の登録者がいるゲーム実況者である。  ゲームが得意だったのと、楽して稼ぎたいという思いが募って始めたゲーム実況だったが、2年で4万人の登録者を獲得するなど、少なからず才能があったようだ。  田村のチャンネルであるシノチャンネルは、女性ファンが多い。特にLive配信中には、「シノくんかっこいい!」などのコメントで溢れ、実況者に直接課金できるというMOREステッカーのプレゼントで埋まることもある。  学生時代、全くモテなかった身からすれば、夢のような光景だ。田村は鼻の下を伸ばしながら、「今日もありがとうな!」とLive配信を終了し、今に至る。  田村が新たなゲームを探しているのには理由があった。  現在、田村が主に配信している『Kampf run』は、人気ゲーム故に配信している人口が多い。そのため、配信時間が被ると必然的にリスナーの取り合いになる。信者はともかく、戦闘ゲームでは上手い人の配信を見たいと思うのはごく一般的な真理だろう。田村は、それを重々承知していながらも、負けるとあからさまに減るリスナー数に焦りと怒りを覚えていたのだ。  加えて田村は大学生だ。今のように長期休みにはLive配信を毎日できるが、大学が始まればそうはいかない。Live配信のスパンが不定期になれば、さらにリスナーが減っていく。そんな懸念も田村を急かしていた。  リスナーに媚びて信者を増やすことも考えたが、下手に出て炎上するのは避けたい。それなら、新しいゲームを始めて新たなリスナーを捕まえよう、これが田村の考えだった。  「んー…、ん?なんだこれ?」  ゲームストアを永遠にスクロールした先に『End Leben』という文字を見つける。興味を惹かれ、ページをクリックする。一見普通の対戦型ゲームだったが、インストールボタンがなく、代わりに「応募する」というボタンがある。  応募…?不思議に思いながら概要欄を読み進める。  「End LebenはAIの敵と15人のプレイヤーが戦う戦闘ゲームです。プレイヤーキャラクターはあなた自身。スキルを持っている方大歓迎!生死をさまよう恐怖を体験してみませんか?いずれ世界中の人々がこのゲームに熱中するでしょう!※このゲームは試作品段階のため、テスター様を募集しております。募集から簡単なアンケートに答えた上で、応募ください。」  一通り読み終えた後、田村は静かに息を吐き、目をぎらつかせた。  この手のゲームはリリース後、必ず人気になる。そんなゲームに試作品段階から関わることができる。ゲーム実況者としてこれ以上うれしいことはない。  リリース後は公式公認ゲーマーになれちゃったりして、とニヤつきを抑えることなく田村は応募ボタンを押した。  アンケートには、氏名年齢性別から職業、特技、所有している資格を記入する欄がある。  「氏名:田村慎之介/年齢:22歳/性別:男/職業:大学生/特技:シノチャンネルという名前でゲーム実況をしています。現時点で約4万人の登録者がいます。対戦型ゲームを得意としているため、基本動作など滞りなくプレイできると思います!/資格:英検二級」  ここまで書けば、採用されるだろう。そう確信した田村は、長すぎる同意書を最下部までスクロールし、応募を完了させた。    すぐにピコンとメールに通知が来る。  「田村様。この度は『End Leben』テスターへ応募いただきまして誠にありがとうございます。結果に関しまして、明日の夜11時に発表となります。ご登録いただきましたメールアドレスに結果を送信しますので、必ず5分以内にご確認をよろしくお願いします。また合格の場合、そのままゲームへと入りますので、お時間の確保をお願いいたします(初日ですので説明を含め45分で終了予定です)。」  テスターってこんな感じなのか?初めてだから勝手がわからない。5分以内だなんて無理な要望を言うなあと半ば呆れながら、これも新規リスナー獲得のためだとおとなしく明日を待つことにした。
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