4/6
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
 狂っている…田村含め、全員がそう感じた。  しかし、どうしようもない。声は奪われ、空の声の主の姿は確認できていない。そもそも相手が人間かどうかもわからない。どう考えても、不利なのはこちら側だった。  そんな思いを知ってか知らずか空の声はしゃべり続ける。  「本日は説明に加えて実際に少し体験していただこうと思ったのですが…。残念ながらすでに42分経過しておりまして、残り時間3分となってしまいました。45分と連絡した以上、皆様をそれ以上拘束するのは私の良心が痛みますので体験は無し、ということにいたしましょう。」  愉快な声はまだ続く。  「明日からは11時にゲームが開始するため、10時45分に皆様をお呼びします。といっても本日とは異なり、パソコン前に待機していただく必要はございません。それでは皆様、良い夜を。Tschüss」  最後は早口でそう聞こえたかと思うと、目の前が真っ暗になる。  次に気が付いた時、田村はパソコンの前に座っていた。ちらりと時計を見る。時計はきっかり11時45分を指していた。  45分…小さく呟きハッと声が出ることに気付く。帰った時、声が戻っているというのは本当だったようだ。内心ほっとしつつ、手が震えていることに気が付く。田村の頭はとんでもないことに手を出してしまったかもしれないという後悔で支配されていた。  そのあとどうやって眠りについたかは覚えていない。次の日、鳴り響く目覚ましに覚醒させられ、やっぱりあれは夢だったんじゃないかと思い直す。急に意味が分からないところに行ったり、声が出なくなるなんて現実世界に起こるわけがない、田村は自分にそう言い聞かせ、シャワーを浴びに行った。  
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!