第十二章 二 王宮へ

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「全てはわたくしの責任です。殿下――わたくしは、恋というものを知らずに生きていたのです。それが貴方を苦しめていたなんて、一度だって考えたこともなく……。でも今は違います。自分でも不思議なくらい、貴方を愛おしく思っています。これからはもう同じ思いはさせません。貴方とわたくしが近しい仲であることも、わたくしのこの気持ちも、ちゃんと伝わるように心がけていきますわ」 「本当ですか?」 「ええ。そのためにも、まずは話し方を変えていかなければなりませんわね。わたくしの普段の話し方が、殿下へのご無礼にならなければ、ですが」 「それはぜひ、お願いします。私もそうします。急には切り替えられないかもしれませんが、少しずつ……」 「ええ、少しずつ」  思わず笑みを零すと、マルグレト様もつられて笑った。 「では、二人の時は殿下と呼ぶのをやめて、マルグレト様とお呼びしてもよろしいですか?」 「あ……急に近くなったような気が……」  左胸を押さえながら喜びを示すマルグレト様は、可愛らしい。 「わたくしのことはデミルカと呼んでください」 「え……でも……」 「ジルもレオンも、エルジナ殿下だってそう呼びますわ。それなのに夫になる方にだけいつまでも“嬢”なんて呼ばれるのは嫌です」 「で、では……」  小さく咳払いをして、 「――デミルカ」    マルグレト様がそう呼んだ途端、二人の間の空気が一変した。  体が引き寄せられる感覚のままに、どちらからともなく両腕を差し伸べ、互いをきつく抱きしめる。 「デミルカ……貴女を愛しています。本当に、心から」 「わたくしもです、マルグレト様。どう言葉にすればいいのか、わからないほど……」  アレンやアシュリーといったい何が違って、こんなにも胸がいっぱいになるのだろう。  どうしてこんなに体が溶けてしまいそうになるのだろう。  マルグレト様の優しい匂い。包み込む感触。  ずっと目を奪われ続けた柔らかな金髪に、今は手が届く。  これまでの苦労なんて全部忘れてしまうほど、それは私にとって、際限なく大きなご褒美だった。  
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