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序章
私が初めての誕生日を迎える頃だったという。
自分の娘が類い希な美貌を持ち合わせていることに気づいた若き日の父は、確信したらしい。
我が娘こそが次期王妃にふさわしい――と。
幼い頃から帝王学を叩き込まれて育った私は、父の期待を超えるほどの、気高く美しく誇り高き公爵令嬢となった。
全ては、父と私の壮大な計画を果たすため。
今日はその実現へと向かう第一歩。
我がグランシェド公爵家に家柄すらも及ばないサランデ侯爵の令嬢――身の程知らずな鬱陶しい小娘を、やっとの思いで退けて勝ち取った、この国の第一王子マルグレト様との婚約。
滞りなく諸々の手続きを済ませ、晴れて今日から王宮での生活が始まる――はずだった。
「――はァ?」
と声が出そうになったのをすんでのところで飲み込んだのは、大英断だったと自負している。
高い天井からシャンデリアの下がる謁見の間。
王、王妃を始め、第二王子のエルジナ、そして宰相、近衛兵、その他王宮仕えの面々に見守られながら、父とともに王子への挨拶を済ませた時だった。
「ですから、その……。私には他に想い人がいて……、デミルカ嬢との婚約は、無かったことにしていただきたいのです、申し訳ありません……っ!」
はァ?
心の中で繰り返しながら、私は屈辱にじっと耐えた。
慌てふためく王と王妃。笑いをかみ殺すエルジナ。ポカンと口を開けたままの宰相。
どうやら王子が暴走したらしい。
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