第十二章 一 かけがえのない人

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「はぁ……幸せすぎて帰りたくなくなってきました」 「じゃあもう十分ね。さ、もう帰ってちょうだい」 「そんな切り替え方あります?」  どちらからともなく体を離し、スッキリした気持ちで、同じく何も思い残すことがなさそうなアレンの晴れ晴れとした顔を見つめる。 「ありがとうアレン。これで安心して王宮に行けるわ」 「いえ、こちらこそいい目標ができました」 「それじゃ、気をつけて帰ってね。グランシェドに帰った時は、必ず会いに行くから」 「はい。デミルカ様も、どうかマルグレト様とお幸せに。私が王宮に招かれる頃には、たくさんのろけてくださいね」 「わかったわ。本当にのろけるから覚悟しといて」 「とっくに覚悟してます」  見えなくなるまでアレンの後ろ姿を見送って、ほうっと息をついた。  こんなに恵まれていていいのだろうか。  自分の思いを受け止めてくれる人達ばかりに囲まれて。  この幸運を返すためにも、私はこの先も高い志で前へ進んでいくことを天に約束しよう。  そして、いよいよ再び嫁入り道具(トルソー)とともに王宮へと向かう時を迎えた。  
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