第十二章 二 王宮へ

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 楽しみです、という言葉が、確かな温度を持っているのに気づいて、なんだか慣れないような気がした。  マルグレト様の気持ちが私に向いている。そう感じられることがあまりに特別な気がして、同時にまだ実感が薄く、夢でも見ているみたいだ。 「貴女の部屋はこちらです」  マルグレト様は両開きの白い扉を開いた。  中に入り、部屋を見回しながら、私は思わず感嘆の声を漏らす。 「わぁ……」  部屋にあるのは、執務用の机、喫茶用テーブル、長椅子や肘掛け椅子や、天蓋付きのベッド、それに鏡台と、一通り必要なものが揃えてあるといった具合だった。  でも、絨毯や、カーテン、クッション、天蓋など、至る所に私の好きな紫色があしらってある。 「素敵な内装……こんなにわたくしに合わせた色調になっているなんて、思いも寄りませんでした」 「貴女がいつも紫のドレスを好んで着ていらっしゃるので、こんなふうに……。ただ、あまり部屋が暗くなってはいけないからと、黒はポイント程度に抑えて、白と淡い紫でまとめてみたんです」  普段のドレスは、濃いめの紫をベースに黒を重ねたようなものが多い。ちょうどそのイメージのクッションが、ベッドの上に一つだけある。  でも、部屋全体をそれで埋め尽くすのではなく、白い部屋に差し色として薄紫をあしらっているあたりに、マルグレト様の上品なセンスが感じられる。 「落ち着けそうな部屋ですわ。とても気に入りました」 「そうですか、それは良かった」 「これ、殿下が選んでくださったのでしょう?」  そう言うと、マルグレト様は驚いた顔をした。 「あ……気づかれてました?」 「ええ、ちょっと耳に入る機会があって。織物工場を回られたのは、そのためだったのでしょう? 隠すことなんてありませんでしたのに」 「言えなかったんです。貴女のためにと思って出掛けていったのに、他の女性に心を奪われて帰ってきただなんて……あまりに酷い話で、貴女の気持ちを思うと……」 「そんなことだろうと思いましたわ。でも、殿下がわざわざ出掛けてくださったと知って、わたくしは嬉しかったんです。少なくともアシュリーに出会う前は、貴方にわたくしを歓迎する気持ちがあったのだと感じられて」
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